子どもがいじめの被害に遭ったら、加害者の家や学校に乗り込んで抗議したいと思う方も多いのではないでしょうか。
しかし衝動的に行動すると、かえって子どものためにならないケースが少なくありません。子どもの気持ちをケアしながら速やかにいじめ問題を解決するため、冷静に対処することをおすすめします。
本コラムでは、いじめられた子どもの親(保護者)が加害者の家や学校に乗り込むことの問題点や、被害者側がとるべき行動などをベリーベスト法律事務所 学校問題専門チームの弁護士が解説します。
我が子が学校でいじめられていると知った親が、加害者や学校へ乗り込んで直接抗議したくなるのは自然なことです。
しかし感情に任せて行動すると、いじめの問題が解決するどころか、かえって子どもの立場が悪くなったり、親自身が法的責任を問われたりするおそれがあります。
いじめ被害者の親が、加害者の自宅や学校へ直接乗り込んで抗議すると、その行動だけが注目されて「モンスターペアレント」と受け止められてしまうおそれがあります。
本来はいじめという行為こそ問題視されるべきですが、親の思い切った行動ばかりが話題となり、学校側が適切な対応をとらないという結果に陥る可能性があります。また、加害者側との対立が深まれば、子どもが学校で孤立してしまうこともあり得るでしょう。
親自身の行動が子どもをさらに追い込んでしまわないように、慎重な行動を心がけましょう。
加害者の自宅に無断で立ち入った場合は「住居侵入罪」(刑法第130条前段)、退去を求められても居座ったりした場合は「不退去罪」(同条後段)によって処罰されるおそれがあります。
また、相手に対して「ただでは済まさない」「退学に追い込んでやる」「SNSでさらして人生を終わらせる」などと畏怖させるような発言をすると「脅迫罪」(刑法第222条)に問われてしまう可能性があることは否定できません。
そして、乱暴な言動によって学校の業務を妨害した場合は「威力業務妨害罪」(刑法第234条)による処罰もあり得ます。
さらに、不当な方法で抗議を行ったことにより、加害者や学校に対して損害を与えた場合は、不法行為(民法第709条)に基づく損害賠償を請求される可能性もあるので注意が必要です。
たとえ目的が子どもを守ることであっても、違法な手段による抗議をしてはなりません。弁護士に相談したうえで、適法な抗議の方法を選択してください。
加害者の家や学校へ直接乗り込まなくても、いじめられた子どものために親ができることはたくさんあります。次に挙げる行動などにより、学校側への働きかけや加害者に対する責任追及に備えましょう。
まずは子どもと話をして、いじめを受けた状況を聞き取ります。
子どもが話しやすいように、親は常に味方であることを伝えましょう。いつ・どこで・誰に・何をされたのかを具体的に聞き取ることが望ましいですが、責めたり無理に聞き出そうとしたりしてはいけません。
1回で全部聞こうとするのではなく、何回かに分けて話を聞くことも検討してください。
また、子どもがどのような解決を望んでいるのかも確認しておきましょう。学校側に相談する際にも、子どもの意思に沿った解決を目指すことが基本線となります。
子どもは穏便な解決を望んでいるケースもあるため、親自身が加害者の家や学校に乗り込む前に、子どもの意思を確認することが大切です。
いじめの事実を学校や加害者側に認めさせるには、客観的な証拠を提示することが重要です。実際に学校や加害者側に対する行動を起こす前に、できる限り証拠の確保を試みる必要があります。
たとえば、いじめによって子どもがけがをした場合は、速やかに医師の診察を受けて診断書を取得します。壊された持ち物は写真を撮るとともに、その現物も保管しておきましょう。
LINEやSNSでのやり取りにいじめに当たる内容が含まれていれば、そのログを保存しておくことで、後々裁判などになったときの証拠として使える可能性があります。
学校や加害者側とのやり取りに備えるためには、いじめの内容や経緯を文章にまとめておくことも大切です。
日時・場所・加害者の言動・目撃者・学校への相談状況などを具体的に記録しておけば、一貫した説明ができるようになります。事前に整理した文章があれば、学校との話し合いや教育委員会への相談、弁護士への依頼などの場面でも、正確かつ効率的にいじめの状況を伝えやすくなることは間違いありません。
親が学校や教育委員会に対して働きかけることが、いじめ被害の解決につながるケースもあります。感情的に抗議するのではなく、次に挙げるポイントを押さえながら事実確認や安全確保を求め、互いに協力しながらいじめ被害の解決を目指しましょう。
そもそも学校には、いじめ防止対策推進法により、いじめの相談・通報を受けた際に事実確認を行い、被害者を守る対応をとる義務があります(同法第23条)。生命・心身・財産に重大な被害が生じたおそれがある場合などは「重大事態」として、学校や教育委員会に調査を行う義務が生じることになっているのです(同法第28条)。
そのため、まずは学級担任に相談し、いじめの状況を具体的に伝えましょう。担任は子どもにとって最も身近な教員なので、親身に対応してもらえるケースがあります。
担任に相談しても改善が見られない場合は、学年主任や生徒指導主任に相談しましょう。それでも改善が見られない場合は校長へと、段階的に相談することをおすすめします。
加害者やその家族へ直接抗議すると、いじめのトラブルが深刻化するおそれがあります。加害者側への働きかけは学校に依頼するか、または弁護士に相談したうえで慎重を期して行いましょう。
学校へ相談する際は、診断書や写真、LINE・SNSの履歴などの証拠を提出しましょう。客観的な証拠があれば、学校側もいじめの事実を無視することができず、適切な対応を引き出しやすくなります。
学校側に対しては、席替えやクラス変更、登下校時の見守りなどの安全確保と、いじめに関する事実関係の調査を依頼します。その後は定期的に学校側と連絡をとり、状況を確認するようにしましょう。
いじめの被害を訴えても、学校が十分な対応をしてくれないケースが少なくありません。その場合は、教育委員会や法務省の人権擁護機関が設けている「こどもの人権110番」や、文部科学省が解説している「24時間子供SOSダイヤル」などに相談してみましょう。
各自治体でもいじめ関連の相談を行える窓口が用意されていることがあります。
お住まいの自治体のホームページで探してみることをおすすめします。
また、弁護士へ相談することも解決につながる可能性があります。学校問題についての知見が豊富な弁護士を通じて交渉することにより、学校側の適切な対応を引き出せることが少なくありません。
いじめに関する対応を弁護士に任せることで、被害者とその親(保護者)はどのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは弁護士への相談のメリットをご紹介します。
弁護士が代理人として介入すると、加害者側や学校は問題を真剣に受け止めるようになり、適切な対応を引き出せるケースがよく見られます。
感情的な対立を避け、冷静な話し合いがしやすくなる点も、弁護士に依頼することの大きなメリットです。
加害者側や学校とのやり取り、法的な請求などを弁護士に任せれば、親は子どものサポートに専念できます。
いじめによる心身へのダメージは、将来にわたって影を落としかねないため、親から子どもへの細やかなケアは決して軽視できません。その点で、交渉面を一任できる弁護士のサポートは大きな支えとなるでしょう。
自動車保険や火災保険、クレジットカードなどに付帯する「弁護士費用特約」を利用できる場合があります。
補償の対象範囲や上限額は契約内容によって異なり、いじめ被害が対象となるかは個別の確認が必要です。利用の可否や自己負担について、あらかじめ保険会社や契約内容をご確認ください。
自分名義のものに加えて、家族名義の弁護士費用特約も使えることがあるので、補償内容を確認してみましょう。
参考
ここでは、子どもがいじめ被害にあってしまった保護者の方から、よくある質問についてまとめています。加害者や学校にどう対応すべきか、事前に目を通しておくことをおすすめします。
けがの診断書や壊された物の写真、LINE・SNSの履歴、録音・録画などが証拠となります。いじめの日時や内容を記録したメモも役立ちます。どのような証拠を集めるべきか分からないときは、弁護士にご相談ください。
まずは子どもの話を丁寧に聞き、不安な気持ちを受け止めましょう。
できる限り子どもの意思を尊重して対応することが望ましいですが、安全確保のために学校へ相談すべきケースもあります。子どもの年齢や判断能力を鑑みて、スクールカウンセラーなどの第三者に相談することを検討しましょう。
感情的に抗議するのではなく、冷静に事実確認や安全確保を求めるのであれば、モンスターペアレント扱いされる可能性は低いといえます。学校側と建設的に話し合う姿勢を心がけましょう。
親同士の話し合いで解決できるケースもある一方で、感情的な対立に発展するケースが少なからずあるため慎重に判断すべきです。まずは学校に対応を求め、必要に応じて弁護士へ相談することをおすすめします。
いじめの証拠を提出し、再度安全確保や調査を求めましょう。それでも学校側が対応しない場合は、教育委員会や弁護士にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
米澤 弘文
所属:東京弁護士会 登録番号:53503
学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。
無料
通話