学校で子どもがいじめ被害にあった場合、加害者や学校の設置者(国公立学校の場合は国や地方自治体、私立学校の場合は学校法人など)・教師(私立学校の場合のみ)に対して、慰謝料を請求できる可能性があります。
子どもの心のケアに努めつつ、被害に対して正当な補償を求めることは、保護者として大切な選択肢のひとつです。
いじめの慰謝料は相場に幅があり、数万円程度にとどまるケースから、重篤な後遺障害が生じたり、自殺に至った場合には数百万〜数千万円以上になったりするケースもあります。適切な請求のためには弁護士のサポートが重要です。ベリーベスト法律事務所の弁護士が詳しく解説します。
子どもがいじめの被害に遭ったら、加害者や学校側に対して慰謝料を請求できる可能性があります。そもそも慰謝料とは何か、ケース別の請求先、刑事事件となりうる場合について紹介します。
「慰謝料」とは、精神的苦痛を補う趣旨の金銭で、損害賠償請求の際の損害の一部です。いじめを受けた場合には精神的苦痛が生じるため、加害者などに対して慰謝料を請求できます。
「損害賠償」とは、文字どおり、不法行為などによって生じた損害を賠償することであり、慰謝料は賠償を求める「損害」の一種です。そのほかには治療費などが「損害」に含まれます。
いじめの被害者は慰謝料に限らず、いじめによって生じた「損害」であり、法律上因果関係の認められるもの、全般の賠償を請求することができます。
いじめに関する慰謝料の請求先は、加害者および学校の設置者です。具体的には、次の者に対して請求します。
| 加害者 | 請求先 |
|---|---|
| 加害者に責任能力がある場合 (10~12歳程度以上が目安) |
加害者本人 |
| 加害者に責任能力がない場合 (10~12歳未満が目安) |
加害者の監督義務者(=父母などの保護者) |
| 学校 | 請求先 |
| 国公立学校 | 国、都道府県、市区町村など ※担任教諭などの個人責任は、原則として追及できません |
| 私立学校 | 学校法人など ※担任教諭などの個人責任も、追及できる場合があります |
いじめの内容によっては、犯罪が成立するケースもあります。
| 暴力を振るわれた場合 | 暴行罪、傷害罪など |
|---|---|
| 物を壊された場合 | 器物損壊罪 |
| 恐喝(カツアゲ)された場合 | 恐喝罪 |
| 公衆の面前で侮辱された場合 | 侮辱罪など |
犯罪にあたるような行為をした加害者が14歳以上の場合、刑事告訴をすることも視野に入ります。
告訴の際には、いじめの客観的な証拠を提出すると、刑事事件として捜査が開始される可能性が高くなります。
「証拠が十分かどうか不安」という場合は、告訴状の作成も含めて弁護士に相談することをおすすめします。
いじめの被害者が、加害者や学校の設置者に対して損害賠償を請求した事例を紹介します。
【裁判の概要】
千葉県千葉市立小学で当時5年生の児童が元同級生に暴力を振るわれてケガをするなどのいじめを受けました。しかし相談を受けた担任教諭は、被害児童を十分に支える措置や、加害児童との接触を避ける措置などを取りませんでした。その結果、被害児童がPTSDを発症し、その後の不登校につながったとして、原告は元同級生側と市に約1400万円の損害賠償を求めました。
【争点】
損害賠償の金額や、学校側の責任の有無などが争われました。
【裁判所の判断】
被害児童の精神的苦痛の大きさを評価して、第一審の33万円から388万円余りへと大幅に賠償金を増額しました(慰謝料を30万円から200万円に増額し、さらに医療費や逸失利益も損害として認定)。
さらに学校側は、被害児童の訴えを真摯に聞いて精神的に支える、他の児童に対して被害児童を支援するよう仕向けるなどの措置をとるべきだったと指摘しました。これらの措置を怠ったことを理由に、加害者に加えて学校側の責任も認定しました。
一方、いじめとPTSDの因果関係については認められなかったものの、頭痛・イライラ・睡眠障害・フラッシュバックなどPTSDに準ずる症状が継続しているとして医療費や逸失利益も損害として認定されました。
(東京高裁令和3年6月3日判決)
いじめの相談を受けた学校側には、被害児童(生徒)に寄り添って解決に取り組む責務があります。被害児童に対して担任教諭が対応不十分であった本件では、学校側の責任が認められたのは適切と言えるでしょう。
【裁判の概要】
埼玉県川口市立中学校のサッカー部に所属していた生徒が、他の部員によってSNSのグループから外されて孤立する、練習中にシャツをつかまれて引き倒されるなど、心身の苦痛を受けるいじめ被害に遭い、不登校になりました。被害に遭った元生徒は、学校側がいじめに適切に対応しなかったとして、学校の設置者である市を相手に550万円の損害賠償請求を求めました。
【争点】
学校の設置者である市の責任の有無や、損害賠償の金額が争われました。
【裁判所の判断】
学校側は個別に部員から事情を聞いたにとどまり、いじめに関する網羅的な調査を怠ったことや、体罰や不適切な発言があったことなどを指摘し、学校側の責任を認定しました。
その一方で、被害生徒側は550万円の損害賠償を請求していたものの、裁判所が認定した損害額は55万円にとどまりました。
(さいたま地裁令和3年12月15日判決)
学校の設置者および学校には、いじめの被害が生じたと思われるときには、事実の有無の確認を行うための措置等を講ずる義務が課されています(いじめ防止対策推進法第23条)。
いじめの調査は、調査票を用いるなどして網羅的に行うことが求められるところ、本件では網羅的な調査を怠ったものとして、学校側の責任が認定されました。
【裁判の概要】
北海道旭川市立中学に通う、当時2年生の生徒が、同級生からいじめを受けて自ら命を絶ちました。遺族は、学校が生徒らに聞き取りをしていれば、いじめを早期に認知できたとして、学校側が不十分な対応だったことなどを主張し、学校の設置者である市を相手に約1億1600万円の損害賠償を請求しました。
【争点】
学校の設置者である市の責任の有無や、損害賠償の金額が争われました。
【和解の内容】
被害生徒の遺族は約1億1600万円の損害賠償を請求していたところ、最終的に市が7000万円を支払う内容の和解が成立しました。
(旭川地裁令和8年3月26日判決)
市長は会見で、教育委員会や学校がいじめの重大事態として認知しなかったこと、いじめ防止対策推進法に基づく対応を十分にしなかったこと、教育委員会が学校に対し適切な指導助言をしなかったことなどを重くみて、再発防止に取り組むと述べています。
遺族は、学校側がいじめを漫然と放置したとして安全配慮義務違反を主張していました。7000万円もの高額の賠償金を支払う和解内容は、遺族の主張におおむね沿ったものと考えられます。
【裁判の概要】
福岡県太宰府市の私立高校に通う、当時3年生の生徒が、学校で身体的な特徴をからかわれたり、殴られたりするなどのいじめを受けて自ら命を絶ちました。原告はいじめへの対応が不十分だったとして、学校を運営する学校法人に対して約9500万円の損害賠償を求めました。
【争点】
学校の設置者である学校法人の責任の有無や、損害賠償の金額が争われました。
【裁判所の判断】
担任教諭が被害生徒の首のあざを確認していたことなどを理由に、学校側はいじめによる自殺を具体的に予見できたと指摘しました。
そのうえで、いじめ対応マニュアルに従った情報の収集や共有、被害生徒に対する心理的ケアなどを行えば自殺を回避することができたとして、学校側の責任を認定しました。
損害賠償の金額についても、第一審の約2600万円から約3000万円に増額しました。
(福岡高裁令和3年9月30日判決)
学校側は、いじめの兆候や痕跡を認識した時点で、直ちに深刻化防止の対応や被害生徒のケアなどに着手する必要があります。これらの対応を怠った結果、いじめ被害者の自殺などの重大な事態が生じた場合には、加害者だけでなく学校側も責任を免れることはできません。
いじめに関する慰謝料の金額は、具体的な事情によって異なります。目安としてどのくらいの額を請求できるのか、および慰謝料の額を左右する要素は何かについて解説します。
いじめの慰謝料の金額は、被害者が受けたいじめ被害の深刻さによって決まります。
たとえば、暴行を受けたけれどもケガをしていないケースや、侮辱等されたものの何とか学校に通学し続けられているケースであれば、数万円~数十万円程度の慰謝料にとどまる可能性が高いです。
これに対して、重大な後遺症が残った場合や、自殺に追い込まれてしまった場合などには、慰謝料が数百万円~数千万円以上に上ることもあります。
被害者側としては、具体的な事情に応じた適正額の慰謝料を計算・請求することが大切です。
いじめの慰謝料の適正額を算定する際には、次に挙げる事情などを考慮します。
慰謝料を増額するためには、証拠に基づいて、被害の大きさを具体的に示すことがポイントとなります。
いじめに関する慰謝料請求は、内容証明郵便を送って請求することを含む交渉や訴訟などの裁判手続きを通じて行います。具体的な手順は次のとおりです。
まずは、いじめの事実や損害の大きさを立証するため、次に挙げる証拠などを確保しましょう。
また、いじめの場面を目撃した友人などがいる場合には、目撃者に証言を依頼することも考えられます。
証拠の確保が完了し、請求する慰謝料の額が決まったら、加害者や学校の設置者に対して内容証明郵便(送付した文書の控えを郵便局で保管するサービス)で請求書を送付しましょう。
内容証明郵便には、いじめに関する具体的事実を記載するなど、請求の根拠を明示することが大切です。弁護士名義で内容証明郵便を送付すれば、相手方の真摯な対応を引き出せる可能性が高まります。
内容証明郵便に対する返信を受けたら、加害者や学校の設置者との間で示談交渉を行います。請求の根拠を明らかにしつつ、適正額の慰謝料の支払いを求めましょう。
相手方からは、慰謝料の減額を求められることもあり得ます。早期解決の観点から減額を受け入れるか、あくまでも当初の請求を維持するかは、弁護士に相談しながら判断すると安心です。
相手方との間で合意が成立したら、合意書を締結して慰謝料の支払いを受けます。
示談交渉がまとまらないときは、民事調停や民事訴訟を利用しましょう。
参考
子どもが学校でいじめを受けていることが分かったら、速やかに弁護士へご相談ください。
いじめの慰謝料請求などを弁護士に依頼することには、主に次のメリットがあります。
いじめについて学校側の責任を追及する場合、請求先は学校の種類によって異なります。
国公立学校の場合は行政(国や地方公共団体)、私立学校の場合は民間の学校法人などが請求先となります。
行政と民間では交渉の進め方や対応の傾向が大きく異なります。弁護士であれば、相手方の特徴を踏まえて適切に慰謝料請求を進めることができます。
いじめに関する慰謝料の適正額は、いじめの内容や期間、ケガの有無など、具体的な事情を総合的に考慮して決まります。
弁護士に依頼することで、「不登校になった期間」「通院にかかった費用」「保護者が仕事を休んだ損失」など、増額につながる可能性のある事情を漏れなく拾い上げ、法的根拠に基づいて慰謝料の適正額を算出することができます。
いじめの被害者やご家族にとって、学校や加害者側と直接交渉することは、大きな精神的負担です。弁護士に代理人としての対応を依頼することで、相手方と直接やり取りせずに済むため、労力やストレスが大幅に軽減されるでしょう。
また、弁護士に交渉のアドバイスを受けながら、実際は保護者自身が話し合いを進めることも可能です。状況や希望に応じて、柔軟に弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
いじめの慰謝料請求に関する交渉は、スムーズにまとまるケースばかりではありません。もし交渉が決裂すれば、最終的には訴訟によって解決を図ることになります。
弁護士に一任することで、訴訟に発展する可能性を見据えつつ、示談交渉の段階から戦略的な対応が期待できます。
いじめの慰謝料請求を成功させるためには、弁護士によるサポートが必要不可欠といえます。ベリーベスト法律事務所の学校問題専門チームでは、いじめの損害賠償請求に関するご相談を随時受け付けておりますので、ぜひお早めにご相談ください。
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
米澤 弘文
所属:東京弁護士会 登録番号:53503
学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。
無料
通話