AIを使って実在する人の顔を合成し、あたかも本物のような性的な画像や動画を作る「性的ディープフェイク」が問題になっています。
特に心配されているのが、子どもを対象とした被害です。SNSに投稿された写真、学校行事の画像や卒業アルバムなどが勝手に使われ、本人の知らないところで性的な画像が作られるケースが増えています。
子どもの「性的ディープフェイク」被害が発覚した場合、保護者は、早期に適切な行動をとり被害の拡大を防ぐことが求められます。被害に遭った場合の対策、加害者が問われうる罪などついて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
性的ディープフェイクは、AI技術の発達によって生まれた、新しいかたちの犯罪です。まずは、どのような行為を指すのか、似たトラブルとの違い、実際に起きた事件を確認しておきましょう。
性的ディープフェイクとは、AIを使って、実在する人の顔や身体を性的な画像・動画に合成し、本人の同意なく生成されたものをいいます。
たとえば、SNSに投稿された子どもの顔写真をAIに読み込ませ、あたかも本人が裸になっているように見える画像を作るケースが考えられます。実際にはそのような写真を撮られていなくても、「本物のように見える画像」が作られ、SNS等で拡散されてしまう点が従来と異なる深刻さを生んでいます。
性的ディープフェイクは、本人の人格や尊厳を傷つけ、学校生活や友人関係にも深刻な影響を与えるおそれがあります。
インターネット上で行われる性的な嫌がらせや画像被害は、「デジタル性暴力」とも呼ばれており、性的ディープフェイクは、デジタル性暴力の代表例といえるでしょう。
性的ディープフェイクと似た問題に、セクストーションやリベンジポルノがあります。いずれもデジタル性暴力の一種ですが、内容は少しずつ異なります。
これに対して、性的ディープフェイクは、実際には存在しない性的画像・動画をAIで作り出す点に特徴があります。本人が撮影に応じた事実がなくても、顔写真などがあれば被害に遭う可能性があります。
令和7年、名古屋市の元小学校教諭が、実在する女子児童の写真をもとに、生成AIで作られた性的画像を所持していたとして、児童ポルノ禁止法違反(所持)で起訴されました。
この事件は、性的ディープフェイクが児童ポルノとして扱われた全国初の事例であり、令和8年6月4日、名古屋地裁は被告に対し、懲役3年6か月の実刑判決を下しました。
従来の児童ポルノ禁止法は「実際に存在する児童の被害」を前提としていたため、AIによる加工画像への適用は難しいと考えられてきました。しかし、今回の裁判では、元の写真から児童を特定できることなどを理由に、法律の適用が認められました。
この判決からも明らかなように、性的ディープフェイクは「AIによる生成画像だから罪にならない」というものではありません。
性的ディープフェイクの被害は、卒業アルバムの写真やSNSに投稿された画像、学校行事の写真、さらには盗撮された画像など、さまざまな場面で撮影された写真をもとに発生しています。
こうした身近な画像が悪用されることで、学校内でも被害が広がっています。
警察庁が公表している「令和7年における少年非行及び子供の性被害の状況」によると、児童の画像を生成AIなどにより性的に加工した性的ディープフェイクの事案は、114件確認されており、潜在的にはそれよりも多くの事案があると指摘されています。
また、実際の加害者と被害児童との関係をみると、「同級生・同じ学校」が65件であり、約6割が同級生や同じ学校の児童・生徒であることがわかります。
つまり、子どもにとっては学校内で起こる、とても身近な被害であるといえるでしょう。
性的ディープフェイクはSNSに起因して犯罪被害が発生することも多いといえます。SNSに起因する犯罪被害は、小学生・中学生・高校生のどの年代でも確認されています。特に、SNSの利用頻度の高い中学生・高校生での被害が多くなっています。
しかし、近年では小学生の被害も増えてきており、児童の画像を生成AIなどにより性的に加工した性的ディープフェイクの事案に限れば小学生の被害は少数ですが、SNSに起因して犯罪被害と広くとらえると令和7年は167件の被害が確認されており、過去10年で最多です。
保護者としては、「小学生だから大丈夫だろう」と油断せず、スマートフォンやSNSの使い方について「顔写真を投稿しない」「アカウントを安易に共有しない」など、家庭でルールを決めることが大切です。
また、子どもの様子に変化がないか日頃から気を配り、トラブルがあればすぐに親に相談することが大切ということを伝えておくことも重要です。
令和8年5月時点では、「性的ディープフェイク」を直接取り締まる法律は、存在しません。
だからといって、何も処罰されないというわけではありません。実際には、既存の法律が適用され、刑事責任が問われる可能性があります。また、刑事責任だけではなく、学校からの処分(停学・退学)や被害者からの損害賠償請求まで一続きで起こり得ます。
【性的ディープフェイクで問われうる罪】
| 行為内容 | 問われうる罪 |
|---|---|
| 画像の作成のみ | 児童ポルノ禁止法違反 |
| 画像を特定の友人やグループで共有する行為もあり | 児童ポルノ禁止法違反、わいせつ物頒布罪、名誉毀損罪、侮辱罪 |
| 画像を不特定多数の人が閲覧できるSNSへの拡散もあり | 児童ポルノ禁止法違反、わいせつ物頒布罪、名誉毀損罪、侮辱罪 ※被害が拡大している点で悪質性が高く、特定の友人間での共有等よりも量刑が重くなる |
実在の児童・生徒の写真などを生成AIで加工し、性的な画像や動画を作成した場合、児童ポルノ禁止法違反に該当する可能性があります。
児童ポルノ禁止法では、わいせつ画像・動画を他人に送る行為以外にも自ら作成し、所持する行為も処罰対象となっています。つまり、個人のPCやスマートフォンに保存しているだけでも処罰対象となります。
性的ディープフェイクの所持により児童ポルノ禁止法違反が成立した場合には、1年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金に問われます。
わいせつな画像や動画を不特定または多数の人に頒布する行為は、わいせつ物頒布罪により処罰されます。
たとえば、性的ディープフェイクによるわいせつ画像をSNSなどにアップロードし、拡散する行為が典型例です。
また、学校内では悪ふざけでクラスメートの画像を利用して、性的ディープフェイクを作成し、友人間で共有するなどのケースもあります。「仲間内だけだから問題ないだろう」と考える方もいるかもしれませんが、実際には画像を共有した友人から第三者に情報が拡散するリスクがあります。そのため、このようなケースでもわいせつ物頒布罪は成立する可能性があります。
なお、わいせつ物頒布罪が成立した場合、2年以下の拘禁刑または250万円以下の罰金に問われます。
名誉毀損罪とは、不特定または多数人に対して、その人の社会的評価を低下させるような事実を摘示した場合に成立する犯罪です。
性的ディープフェイクは、本人の画像を使用して、あたかも本人がわいせつな行為をしているように見せるものですので、それが広まれば本人の社会的評価は著しく低下します。
SNSで拡散した場合にはもちろん、友人間で共有した場合も第三者に広まるおそれがあることから、名誉毀損罪が成立する可能性が高いといえるでしょう。
なお、名誉毀損罪が成立した場合、3年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金に問われます。
侮辱罪とは、不特定または多数人に対して、その人を侮辱した場合に成立する犯罪です。侮辱罪は、名誉毀損罪のような「事実の摘示」までは必要ではなく、単なる悪口でも成立するのが特徴です。
たとえば、性的ディープフェイクの画像を拡散する際に「○○が性行為をしている動画」などのタイトルを付けていた場合、事実の摘示があるため名誉毀損罪の対象になります。これに対して、「○○のエロい画像」というタイトルでは事実の摘示がないため侮辱罪の対象になります。
なお、侮辱罪が成立した場合、以下のいずれかの刑が科されます。
他人の写真や動画、音源などの素材を無断で使用して、性的ディープフェイクを作成すれば、著作権侵害・著作者人格権侵害が問題になります。
たとえば、アダルトビデオの女優の顔をクラスメートの顔と入れ替えたようなものが代表的なケースです。このような行為は、アダルトビデオの制作会社などの著作権者の権利を侵害するため、著作権法違反に問われる可能性があります。
性的ディープフェイクの動画を公開するなどの著作権法違反があった場合は、10年以下の拘禁刑または1000万円以下の罰金(併科あり)が科されます。
肖像権とは、自分の顔や姿を無断で撮影・利用されない権利をいいます。
性的ディープフェイクは、勝手に他人の顔写真をAIで取り込んで利用するものですので、顔写真を利用された人の肖像権を侵害する行為といえます。
肖像権侵害は、刑事罰の対象にはなりませんが、民事上の不法行為に該当しますので、被害者から損害賠償請求をされる可能性があります。
性的ディープフェイクに関与した場合、刑事責任だけではなく、学校から停学や退学といった処分を科される可能性があります。
また、学校によっては、進学先への内申書や調査書に影響が出る可能性もあり、将来の進路に不利益が生じるおそれがあります。
性的ディープフェイクの拡散は、名誉毀損や肖像権侵害といった違法行為にあたりますので、精神的苦痛を被った被害者から損害賠償請求をされる可能性があります。
慰謝料の金額は、ケース・バイ・ケースですが、SNSで広く拡散された場合には悪質性が高いと評価され、100万円を超えることもあるでしょう。
子どもが性的ディープフェイクの被害に遭った場合、対応が遅れると被害が拡大し、子どもの心に大きな傷跡を残すことになります。そのため、被害に気付いたときは、すぐに以下のような対応を行うようにしてください。
性的ディープフェイクの被害に気付いたら、すぐに証拠を確保するようにしましょう。
具体的には、以下のような対応が考えられます。
証拠は、刑事事件として警察へ相談する際や、加害者への損害賠償請求をする際に必要になりますので、必ず残しておくようにしてください。
また、SNSなどで拡散されている場合、放置すると被害が拡大します。早期にSNSの運営会社などに削除依頼を行うことも重要です。また投稿が匿名であっても、証拠をもとに、発信者情報開示請求を行うことで、投稿者の身元を特定できる場合があります。
性的ディープフェイクの被害は、子どもにとって大きなショックとなります。
「恥ずかしい」「知られたくない」という気持ちから、誰にも相談できずに一人で抱え込んでしまうこともあります。
そのため、保護者としては「あなたは悪くない」と伝え、安心できる環境をつくることが重要です。無理に事情を聞き出すのではなく、子どものペースに合わせて話を聞き、必要に応じてスクールカウンセラーや専門機関のサポートを受けることも検討しましょう。
性的ディープフェイクは、児童ポルノ禁止法違反やわいせつ物頒布罪、名誉毀損罪などの犯罪にあたるケースもあります。
ただし、刑事事件の対象になるかどうかは、法的観点からの見極めが必要になるため、早い段階で弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、刑事事件として立件するための証拠収集や刑事告訴の手続きをサポートし、加害者に適正な刑罰を与えるために尽力します。
性的ディープフェイクの被害が学校内で発生している場合、学校に対して責任を追及できる可能性があります。
学校には、児童・生徒が安心して生活できるようにする「安全配慮義務」があります。そのため、学校が適切な対応を行わなかった場合には、この義務に違反したとして責任を問うことが考えられます。
たとえば、以下のようなケースです。
もっとも、学校とのやり取りは専門的な判断が必要になることも多いため、不安がある場合は弁護士に相談しながら進めると安心です。
性的ディープフェイクの被害は、強い不安や恥ずかしさを伴い、子どもに大きな心の負担を与えます。
このような被害に対しては、加害者やその保護者に対して慰謝料を請求することが可能です。「子ども同士の問題だから」とためらう方もいますが、被害の重さに見合った責任を求めることは、子どもを守るためにも必要な行動といえるでしょう。
その際、弁護士に相談することで、相手とのやり取りを直接行う必要がなくなり、精神的な負担を軽減することができます。
「どう動けばいいのかわからない」と感じたときは、保護者の方だけで抱え込まず、専門家の力を借りることも検討してみてください。
参考
性的ディープフェイクは、誰にでも起こり得る身近なトラブルであり、子どもが被害に遭うケースも増えています。突然の出来事に戸惑うのは当然ですが、被害を受けた側だけで抱え込む必要はありません。
まずは、画像や投稿の証拠をしっかり残し、これ以上被害が広がらないように対応することが大切です。そのうえで、学校や専門家と連携しながら、落ち着いて対応していくようにしましょう。
ベリーベスト法律事務所では、学校問題専門チームとSNSでの誹謗中傷の専門チームが連携し、被害の解決をサポートしています。お悩みの際は、まずはお気軽にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
米澤 弘文
所属:東京弁護士会 登録番号:53503
学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。
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