いじめの加害者に対して退学や停学などの処分を行うよう、学校に求めたい被害者の方もいらっしゃるでしょう。処分を求める旨を学校に伝えること自体は可能ですが、被害者が「加害者を退学させてほしい」と求めれば、必ず処分されるわけではありません。国公立の小中学校か、高校か、私立学校かによっても、取れる措置は異なります。
そのため、加害者への処分だけでなく、いじめを終わらせ、子どもが安心して学校生活を送れる環境をどう取り戻すかも、あわせて考える必要があります。
本コラムでは、いじめの加害者に求めることができる処分と学校への働きかけ方、慰謝料・損害賠償請求の方法について、ベリーベスト法律事務所 学校問題専門チームの弁護士が解説します。
いじめ加害者の退学・停学処分を求めたとしても、被害者側が処分を決めることはできません。また、公立小中学校と高校・私立学校では、可能な処分が異なります。
まずは、学校にどこまで求められるのかを確認しましょう。
まずは結論からお伝えします。
市町村立の小中学校(中高一貫の併設型中学校を除く)や義務教育学校に在学する児童・生徒に対しては、いじめを理由とする退学処分を行うことはできません(学校教育法施行規則第26条第3項)。
また、停学処分は、小中学校に在籍する児童・生徒に対しては公立・私立を問わず行うことができません(同条第4項)。いずれも、いじめ加害をした子どもが義務教育を受ける機会を奪うことになるためです。
ただし、加害者に何も処分を求められないわけではありません。
他の児童・生徒に傷害、心身の苦痛または財産上の損失を与える行為などを繰り返し行い、他の児童・生徒の教育に妨げがあると認められる場合、市町村の教育委員会が、加害児童・生徒の保護者に対して「出席停止」を命じることがあります(学校教育法第35条第1項。中学校は同法第49条、義務教育学校は同法第49条の8で準用)。
出席停止は、一定期間、学校への登校を認めない措置です。加害児童・生徒に対する懲戒処分ではなく、ほかの児童・生徒が安心して教育を受けられる環境を守るための措置と位置づけられています。
なお、この制度は市町村立の小中学校を対象とするもので、国立・私立の小中学校には適用されません。
そのため、公立小中学校では退学処分を求めるのではなく、加害者の出席停止や加害者から被害児童・生徒への接触を防ぐ措置など、子どもの安全を確保する対応を求めることも検討しましょう。
高校では、公立・私立を問わず、退学処分・停学処分のいずれも行うことが可能です。
ただし退学処分ができるのは、性行不良で改善の見込みがないと認められる場合など、学校教育法施行規則第26条第3項が定める4つの事由のいずれかにあたる時に限られます。
私立の小中学校では、市町村立の小中学校とは異なり退学処分を行えます。ただし、停学処分は、私立でも小中学校のうちは行うことができません(同条第4項)。
なお、いじめが認められれば必ず退学・停学になるわけではありません。
退学・停学・訓告の処分を行うかどうかを決めるのは校長であり(学校教育法施行規則第26条第2項)、児童・生徒の心身の発達に応じた教育上必要な配慮が求められます(同条第1項)。
そのうえで、学校側は、当該いじめの悪質性や被害の程度、以前から繰り返されているか、これまでの指導状況などを踏まえ、学則などに沿って処分を判断します。
被害者側から退学・停学を求めることはできますが、学校に特定の処分を強制できるわけではないことは理解しておきましょう。
自主退学とは、本人の意思で学校を辞めることです。
これに対して、退学勧告(自主退学の勧奨)とは、学校が児童・生徒本人や保護者に自主的な退学を促すものです。退学勧告は学校教育法上の懲戒処分ではないため、退学処分のような法令上の要件はありません。
ただし、繰り返し強い言葉で退学を迫るなど、実質的に退学を強制していると評価される場合には、違法と判断される可能性があります。
退学処分(いわゆる強制退学)は、児童・生徒本人の意思にかかわらず学校が懲戒として行います。非常に重い処分であるため、学校側にも慎重な判断が求められます。
加害者が退学や停学にならなくても、いじめの被害を受けた子どもの安全を守るための対応を学校に求めることはできます。
たとえば、加害児童・生徒とクラスや座席を離す、加害者との接触を防ぐ、教職員による見守りを強化するといった方法が考えられます。
他方で、「加害者を退学させてほしい」という要求だけでは学校との話し合いが進まない場合もあります。そのような時は、いじめを止めるために何をしてほしいのかを具体的に伝えることが大切です。
では、学校に適切な対応を取ってもらうには、どのように働きかければよいのでしょうか。次章で詳しく解説します。
いじめへの対応を学校に求める時は、証拠を整理したうえで学校に働きかけ、必要に応じて教育委員会などへ相談するという順序で進めます。ここでは、学校に適切な対応を求めるための手順を順番に見ていきましょう。
学校へ相談する際には、いじめの事実を確認できる証拠や記録を事前にできるだけ残しておきましょう。
たとえば、LINEやSNSのメッセージ、写真・動画、録音、子どもの日記、けがをした場合の診断書などが証拠になります。
あわせて、「いつ・どこで・誰から・何をされたか」を時系列でまとめておくと、学校側にも状況を伝えやすくなります。
学校との面談や電話についても、日時や担当者、話した内容、学校側の回答を記録してください。後になって「言った・言わない」という争いになるのを防ぐためです。
学校は、いじめの相談や通報を受けた時は、速やかにいじめの事実の有無を確認し、その結果を学校の設置者に報告しなければなりません(いじめ防止対策推進法第23条第2項)。
いじめがあることが確認された場合には、複数の教職員が心理・福祉の専門家と連携して、いじめを受けた児童・生徒とその保護者を支援し、いじめを行った児童・生徒への指導とその保護者への助言を継続的に行うこととされています(同条第3項)。
また、いじめを受けた児童・生徒が安心して教育を受けられるようにするため必要があると認められる時は、加害児童・生徒を別室で学習させるなど、両者を引き離すための措置を取ることとされています(同条第4項)。
「子ども同士の問題だから」と学校任せにせず、どのような調査や対応を行ったのか、具体的な説明を求めましょう。
いじめによる被害が深刻な場合には、いじめ防止対策推進法上の「重大事態」として、学校や学校の設置者による調査が必要になることがあります。
重大事態にあたるのは、主に次のようなケースです。
なお、この「※相当の期間」は、文部科学省「いじめの重大事態の調査に関するガイドライン」において、年間30日が目安とされています。ただしこれはあくまで目安であり、一定期間連続して欠席している場合には、30日に満たなくても重大事態として調査に着手することが求められています。
具体例としては、いじめにより被害者に以下のような影響が生じた場合には、いじめの重大事態にあたる可能性があります。
重大事態にあたる疑いがある場合、学校の設置者(公立学校であれば教育委員会、私立学校であれば学校法人)またはその設置する学校は、組織を設けて事実関係を明確にするための調査を行うこととされています。つまり、事実関係が確定した段階ではなく、「疑いがある」段階で調査を開始する必要があります。
調査では、いじめの具体的な内容や経緯、学校側がこれまでどのように対応してきたのかなどを確認します。
学校へ繰り返し相談しても対応してもらえない場合は、学校以外の機関への相談も検討しましょう。
公立学校であれば、学校を管轄する市町村の教育委員会が主な相談先です。
私立学校の場合は、学校の設置者(学校法人など)への申立て、都道府県(私立学校主管部課など)への相談が考えられます。
暴行や傷害、恐喝など犯罪にあたる可能性があるいじめ行為がある場合は、私立公立問わず、早期に警察へ相談することをおすすめします。
また、学校がいじめを認めない、重大事態として調査してくれないなど、保護者の方だけで対応が難しい場合には、弁護士に相談することも選択肢のひとつです。
いじめ被害によって子どもが心身に不調を抱えた場合、加害者や学校に慰謝料などを請求できる可能性があります。ただし、誰に責任を問えるか、どこまでの損害を請求できるかは事情によって異なります。ここでは、損害賠償請求の方法を解説します。
損害賠償を考える際には、「誰に請求するのか」と「どのような損害を請求するのか」を分けて整理する必要があります。それぞれ詳しく見ていきましょう。
① 損害賠償を請求できる相手
いじめの被害について、まず損害賠償の請求先となるのは加害者本人です。
ただし、加害者が未成年で、自分の行為の責任を理解できるだけの判断能力(責任能力)を備えていなかった場合、本人は賠償責任を負いません。
この場合は、監督する立場にある保護者が責任を負う可能性があります(民法第714条第1項)。責任能力が認められるかどうかは個別の事情によりますが、裁判例ではおおむね12歳前後がひとつの目安とされています。
一方、加害者本人に判断能力がある場合でも、保護者の監督が不十分だったことにより損害が発生したという因果関係があれば、保護者にも損害賠償を請求できるケースがあります。
さらに、学校側がいじめを把握していた、または把握できたにもかかわらず、必要な対応を取らなかったことで被害が拡大した場合などには、学校側の責任を追及できる可能性もあります。
ただし、請求先は学校の種類によって異なります。
公立学校の場合、教職員個人ではなく、学校を設置する国や地方公共団体(都道府県・市区町村)に対して請求することになります(国家賠償法第1条第1項)。
私立学校の場合は、在学契約に基づく安全配慮義務違反や、教職員の行為についての使用者責任を根拠に、学校法人へ請求することが考えられます。
② 請求できる主な損害
いじめによる損害賠償では、精神的な苦痛に対する慰謝料に加え、実際に生じた費用も請求の対象となる可能性があります。
請求できる主な費用は、以下のとおりです。
ただし、支払った費用がすべて認められるわけではありません。いじめと損害との間に法律上のつながり(相当因果関係)が認められるかどうかが判断のポイントです。
損害賠償を求めるには、いじめがあったことだけでなく、どのような被害が生じたのかを証明する必要があります。そのため、被害や支出を裏付ける資料も残しておきましょう。
たとえば、けがや心の不調が生じた場合には診断書や診療記録(カルテ)、医療費の領収書などが役立ちます。転校した場合には、転校の経緯がわかる資料や実際に支払った費用の領収書なども保管してください。
いじめの証拠と、そこから生じた損害を裏付ける資料をセットで整理しておくと、請求の根拠を示しやすくなります。
いじめの内容によっては、損害賠償を求めるだけでなく、警察への相談や刑事告訴も併用できます。
民事上の損害賠償請求と刑事手続きは別の制度であり、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。
たとえば、殴る・蹴るといった行為は暴行罪(刑法第208条)や傷害罪(同法第204条)、お金を脅し取る行為は恐喝罪(同法第249条)にあたる可能性があります。
被害を受けた子どもが未成年であっても、その法定代理人である保護者が独立して告訴することができます。ただし、加害者が14歳未満の場合は刑事責任を問われず、触法少年として児童相談所や家庭裁判所が対応します。14歳以上20歳未満の場合も、原則として成人と同じ刑事裁判ではなく、家庭裁判所での少年審判の手続きに進みます。
いじめの損害賠償請求は、証拠をそろえたうえで加害者などと交渉し、解決できなければ裁判所での手続きへ進むのが基本的な流れです。
具体的には、次のように進めます。
なお、損害賠償を請求できる期間には限りがあります。
いじめのように人の生命または身体を害する不法行為による損害賠償請求権は、被害者が損害および加害者を知った時から5年、不法行為の時から20年が経過すると、時効によって消滅します。
壊された持ち物の弁償など財産的な損害のみを請求する場合は、知った時から3年です。時間がたつほど証拠も集めにくくなるため、早めに検討することが重要です。
保護者だけで交渉することもできますが、感情的な対立に発展すると話し合いが難しくなることがあります。また、SNSで相手の実名を公開したり、加害者の自宅へ押しかけたりすると、かえって名誉毀損罪や住居侵入罪に問われるおそれがあります。
冷静な話し合いが難しい場合や、相手方の賠償責任を追及したい場合には、早めに弁護士へ相談することをおすすめします。
いじめ問題は、学校や加害者との話し合いだけでは解決が難しいこともあります。対応が長引くほど子どもの負担が大きくなるおそれもあるため、状況によっては早めに弁護士へ相談することも検討しましょう。
学校や加害者との話し合いが進まない場合は、弁護士への相談を検討するタイミングです。
特に、次のような状況では、保護者だけで対応を続けるのは難しくなる傾向があります。
このような時は、早めに弁護士へ相談することを検討しましょう。状況を整理し、適切な対応についてアドバイスを求めましょう。
学校への相談を重ねても対応が進まない場合、弁護士が連絡したり話し合いの場に同席したりすることで、学校側の対応が変わることがあります。
弁護士は法律知識に基づき、学校側に具体的な対応や措置を求めます。それを受けて学校側が「法的責任を問われる可能性」を改めて認識するケースもあるでしょう。
また、弁護士は学校への対応だけでなく、教育委員会への働きかけや加害者との交渉、損害賠償請求など代理で行います。
もちろん、弁護士の介入がすべての問題を解決するわけではありません。しかし、保護者の方が学校と直接交渉することにより生じる精神的な負担が軽くなることで、お子さんの心身のケアにより注力できるでしょう。
いじめ問題について弁護士に相談する場合、一般的には次のような流れで進みます。
弁護士費用は、相談料・着手金・報酬金・実費などで構成されます。金額は、法律事務所や依頼内容(学校との交渉のみを依頼するのか、損害賠償請求まで行うのかなど)、請求額によって大きく異なるため、一律の相場を示すことはできません。
相談の際に、想定される費用の総額と支払時期をあわせて確認しておきましょう。
参考
子どもがいじめで苦しんでいるのに、学校が思うように動いてくれなければ、「どうすれば子どもを守れるのか」と保護者の方が不安になるのは当然です。
加害者を退学・停学させるのが難しい場合でも、学校に安全確保のための対応を求めることや、加害者・学校へ損害賠償を請求することもできます。
ベリーベスト法律事務所には、学校問題専門チームがあります。学校との話し合いが進まない、今後どう対応すればよいかわからない場合は、保護者の方やご家族だけで抱え込まず、まずはご相談ください。
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
米澤 弘文
所属:東京弁護士会 登録番号:53503
学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。
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