保育園・幼稚園の弁護士コラム

【裁判例】通園バス置き去り事故と法的責任│保護者ができることは?

  • 保育園・幼稚園
更新日:2026年06月01日 公開日:2026年06月01日
【裁判例】通園バス置き去り事故と法的責任│保護者ができることは?

近年、通園バスに園児が置き去りにされる事故が相次ぎ、命を落とすという痛ましい出来事も起きています。こうした事故は、ほんのわずかな確認不足や安全管理体制の不備が重なって発生するケースが少なくありません。

通園バスの事故では、園長や運転手などの刑事責任が問われる場合があるほか、被害児童又はその家族が園を運営する法人・自治体などに対して損害賠償を請求できる可能性もあります。また、事故の原因や責任の所在を明らかにするためには、早い段階で適切な行動をとることが重要になりますので、親としてとるべき行動を把握しておくようにしましょう。

今回は、実際の裁判例をもとに通園バス置き去り事故の法的責任を解説するとともに、事故が起きたときに保護者(親)がとるべき行動や弁護士がどのようにサポートできるのかについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、【裁判例】通園バス置き去り事故と、再発防止対策の動き

通園バスの置き去り事故は、幼い子どもの命に直接関わる重大な問題です。

近年、日本では複数の事故が発生し、刑事裁判でも関係者の責任が厳しく問われるようになっています。ここでは代表的な裁判例とともに、国の再発防止に向けた取り組みについて見ていきます。

  1. (1)福岡県の私立保育園で発生したバス置き去り事故(執行猶予付き有罪判決)

    【事案の概要】
    令和3年7月、福岡県中間市の保育園において、5歳の男児が通園バスの車内に長時間取り残され、熱中症で死亡する事故が発生しました。
    当日は園長がバスを運転し、保育士が園児の降車補助を担当していました。しかし、すべての園児が降車したかどうかの確認が十分に行われないまま車両が施錠され、男児は約9時間にわたって車内に残された状態となりました。その結果、炎天下の車内で熱中症を発症し、命を落とすという痛ましい結果となりました。

    【刑事裁判の結果】
    園長と保育士は業務上過失致死罪で起訴され、福岡地方裁判所は以下の判決を言い渡しています。
    ・元園長:禁錮2年(執行猶予3年)
    ・保育士:禁錮1年6か月(執行猶予3年)
    裁判所は、園児が車内に残っていないか確認するという基本的な安全確認を怠った点を重く評価し、過失責任があると判断しました。

    【民事裁判(損害賠償請求)の結果】
    ・被告:元園長、降車補助を担当した保育士、園を運営する運営法人
    ・原告:死亡した園児の両親
    ・原告が求めた賠償金額:5400万円
    園側が賠償金を支払うとして和解が成立しましたが、具体額は非公表となっています。

    この事故からは、園児の降車確認や車内の最終点検といった基本的な安全手続きが徹底されていなかったことがうかがえます。保育施設では多くの子どもを預かるため、確認作業が形骸化する危険があることを示した事例といえるでしょう。

  2. (2)静岡県の認定こども園で発生したバス置き去り事故(実刑判決)

    【事案の概要】
    令和4年9月、静岡県牧之原市の認定こども園で、3歳の女児が通園バスの車内に取り残され、重度の熱中症により死亡する事故が起きました。
    女児は登園後にバスから降りておらず、約5時間にわたって車内に残されていたとされています。当日は、バスを運転していた理事長兼園長が車内確認を行わないまま施錠し、担任も園児の所在確認を十分に行っていなかったことが問題となりました。

    【刑事裁判の結果】
    バスを運転していた理事長兼園長と担任保育士が業務上過失致死罪で起訴され、静岡地方裁判所は次の判決を言い渡しています。
    ・元理事長兼園長:禁錮1年4か月(実刑)
    ・元担任保育士:禁錮1年(執行猶予3年)
    裁判所は、園児の安全確保に関する注意義務を怠った過失は重大であると判断しました。特に、バスの運転者であり施設の責任者でもあった元理事長兼園長については責任が重いとされ、実刑判決が下されています。

    【民事裁判(損害賠償請求)の概要】
    ・被告:元理事長兼園長、元クラス担当の保育士等5人、園を運営する運営法人
    ・原告:死亡した園児の遺族
    ・原告が求めた賠償金額:非公開
    2025年1月に遺族が民事訴訟を提訴しましたが、判決・和解成立は未確定(2026年4月時点)です。

    この事故では、運転手による車内確認、担任による出席確認、園としての安全管理体制など、複数の確認体制が適切に機能していなかった点が問題視されました。個人のミスというよりも、園全体の安全管理体制の不備が指摘された事例といえます。

  3. (3)国の対策│国土交通省は「置き去り防止を支援する安全装置」装備を義務化

    通園バスの置き去り事故を受けて、国も再発防止に向けた対策を進めています。
    国土交通省は、置き去り防止を支援する安全装置の設置を求める方針を示しました。これは人為的な確認ミスを補うことを目的とした装置です。

    主な方式としては次の2種類があります。

    ① 降車時確認式の装置
    エンジン停止後に警報が鳴り、運転者が車内を確認して車両後部のボタンを操作することで警報を解除する仕組みです。

    ② 自動検知式の装置
    カメラやセンサーにより車内の状況を検知し、園児が残っている場合には警報が発せられる仕組みです。

    参考:「送迎用バスの置き去り防止を支援する安全装置のガイドライン」(国土交通省)

    このように、人的確認だけに頼るのではなく、機械によるチェックを組み合わせることで事故防止を図る取り組みが進められています。

2、園が負う法的責任

通園バス事故が発生した場合、園や関係する職員には複数の法的責任が生じる可能性があります。もっとも、どのような責任が問題になるのかは一般の保護者(親)にはわかりにくいことも多いでしょう。

ここでは、通園バス事故で検討される主な責任の種類について、あらためて説明します。

  1. (1)刑事責任、民事責任、行政処分の違い

    通園バス事故では、大きく分けて刑事責任、民事責任、行政処分という三つの観点から責任が検討されます。それぞれの制度は目的や内容が異なります。


    責任の種類 目的 主な当事者 内容 根拠法
    刑事責任 犯罪の処罰 加害者(園長、運転手、職員など) 拘禁刑・罰金など 刑法
    民事責任 被害の回復 被害者(園児、親)と加害者(園長、運転手、職員など) 損害賠償(治療費、慰謝料、逸失利益など) 民法
    行政処分 施設への監督 保育施設 改善命令・業務停止命令など 児童福祉法など

    ① 刑事責任
    通園バスの送迎では、園児の人数確認や車内点検など、事故を防ぐための基本的な注意義務があります。こうした確認を怠った結果、園児が死亡または負傷した場合には、関係者に業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります。

    ② 民事責任
    刑事責任とは別に、被害を受けた側は園の運営主体などに対して損害賠償を求めることができます。事故によって子どもが身体的または精神的な影響を受けた場合には、治療費や慰謝料などが問題となることがあります。

    ③ 行政処分
    保育施設は自治体の監督下で運営されているため、重大な事故が発生した場合には自治体による行政対応が行われることがあります。具体的には、施設に対する改善指導や監査、場合によっては業務停止などの措置が取られることがあります。

  2. (2)保育園、幼稚園が負う「安全配慮義務」とは?

    保育施設は、園児の安全を守る立場にあるため、事故を防ぐための管理体制を整える義務を負っています。これを一般的に安全配慮義務と呼びます。

    通園バスの送迎においては、園児の人数確認や車内点検、出席状況の確認など、基本的な安全確認が求められます。また、職員同士で情報を共有したり、送迎に関する手順をマニュアル化したりすることも重要です。

    特に幼い子どもは危険を自分で回避することが難しいため、園側にはより慎重な管理体制が求められます。こうした体制が十分に整備されていなかった場合、園の責任が問われる可能性があります。

3、バスの置き去り等の事故にあったら? 保護者ができること

通園バス事故は突然起こるため、保護者がどのように対応すべきか迷うことも少なくありません。事故直後の対応によって、その後の状況が変わることもあります。ここでは、保護者(親)が意識しておきたい対応について説明します。

  1. (1)医療機関を受診、通院記録を残す

    通園バスの車内は気温が上がりやすく、短時間でも子どもの体調に影響が出る恐れがあります。熱中症や脱水症状などの症状が見られる場合はもちろん、子どもの様子に少しでも異変がある場合には医療機関を受診することが望ましいでしょう。

    診察結果や通院の記録は、事故による影響を確認する際に重要な資料になる場合があります。まずは子どもの健康状態を優先し、医師の診察を受けることが大切です。

  2. (2)「その日の出来事」をメモに残す

    事故当日の状況は時間がたつと記憶が曖昧になることがあります。そのため、事故が起きた日時や子どもの様子、園から説明を受けた内容などをできるだけ早く記録しておくとよいでしょう。

    こうしたメモは、後に事故の経緯を整理する際に役立つことがあります。できるだけ客観的に状況を記録しておくことが重要です。

  3. (3)園に「事実の説明」を求める

    事故が発生した場合、保護者が事故の経緯について園側に説明を求めることは当然のことです。
    当日の送迎状況や人数確認の方法などについて説明を受けることで、事故の原因を理解しやすくなります。事故の背景を把握することは、その後の対応を検討するうえでも重要になります。

  4. (4)家族だけで抱え込まない

    事故後は、園とのやり取りや子どもの体調の心配などで精神的な負担が大きくなることがあります。対応に悩んだ場合には、家族だけで抱え込まず専門家に相談することも検討するとよいでしょう。

    弁護士などに相談することで、状況を客観的に整理しながら今後の対応を考えることができます。

4、通園バスの事故を弁護士に相談するメリット

通園バス事故では、事故の経緯や責任関係を整理することが重要になります。弁護士に相談することでさまざまな支援を受けることができます

  1. (1)法的根拠に基づき、園の記録・証拠の確保を求められる

    事故の原因を検討するためには、園が保管している資料を確認する必要があります。送迎の運行記録や出席簿、職員の配置状況などは、事故の経緯を把握するうえで参考となる資料です。
    弁護士が関与することで、こうした資料について法的根拠に基づいて確認や提出を求めることが可能になります。

  2. (2)園との代理交渉を任せられる

    事故後は園との話し合いが続くことがありますが、保護者にとって精神的な負担となることもあります。弁護士が保護者の代理人として対応することで、園との交渉を任せることが可能です。
    冷静な第三者が間に入ることで、事実関係を整理しながら冷静な話し合いを進めることが期待できるでしょう。

  3. (3)適切な損害賠償請求ができる

    事故によって子どもが被害を受けた場合、園の管理体制に問題が認められれば損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、どのような損害が認められるかは、法律や過去の裁判例などを踏まえて判断されます。
    弁護士に相談することで、事故の状況や被害の内容を整理しながら、適切な請求方法について助言を受けることができます。

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5、まとめ

通園バスの置き去り事故は、確認作業の漏れや管理体制の不備などが重なることで発生する重大な事故です。裁判例では、園長や職員の刑事責任が問われるケースもあり、園の運営主体に対して損害賠償責任が認められる可能性もあります。

もっとも、事故の原因や責任関係を整理することは容易ではありません。通園バス事故など保育園・学校での事故についてお悩みの方は、専門チームを有するベリーベスト法律事務所へご相談ください。専門的な知見をもとに、保護者の立場に寄り添いサポートいたします。

この記事の監修者
米澤 弘文

ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士  米澤 弘文

所属:東京弁護士会  登録番号:53503

学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。

  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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