学校事故の弁護士コラム

椅子引きで子どもがケガをしたら? 親が取るべき対応や法的責任

  • 学校事故
更新日:2026年05月07日 公開日:2026年05月07日
椅子引きで子どもがケガをしたら? 親が取るべき対応や法的責任

子ども同士の軽い悪ふざけだったとしても、「椅子引き」は、重大なケガにつながる危険な行為です。

もし子どもが「椅子引き」の被害に遭ってしまったら、通院やケガの状況を記録しておきましょう。災害共済給付金の申請や、学校・加害児童生徒へ損害賠償金(慰謝料など)を求める際の証拠になりえます。

また、思いがけず子どもが加害者となってしまった場合、保護者は監督義務者としての責任を果たさなければなりません。ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、【事故事例】椅子引きは「悪ふざけ」ではすまされない

椅子引きは、子ども同士のふざけ合いとして行われることが多い行為ですが、骨折や神経損傷などの重大事故が発生しており、悪ふざけではすまないケースも散見されます。

以下では、椅子引き事故の現実と危険性を理解するため、代表的な事例を紹介します。

  1. (1)椅子引きで仙骨を骨折し重大事態とされたケース

    新潟県の中学校で、着席しようとした生徒が後方から椅子を引かれ、そのまま床へ転倒するという事故が発生しました。被害生徒は、尻もちをつく形で強く衝撃を受けた結果、仙骨を骨折する重傷を負い、学校生活・日常生活の制限を余儀なくされました。

    この事故は、保護者の要求により“いじめ”の「重大事態」として調査が行われており、椅子引き行為の危険性とともに、学校の指導体制の不十分さが指摘されています。

  2. (2)椅子引きで下半身まひの後遺障害を負ったケース

    岐阜県の高校で、同級生に椅子を引かれて転倒した生徒が脊髄を損傷し、下半身まひという重い後遺障害が残る事故が発生しました。事故後は歩行が困難となり、長期の入院やリハビリを経て、現在も車いすの生活を強いられています。

    椅子引きによる転倒では、背骨や神経に直接衝撃が加わることがあり、転倒の仕方によっては深刻な後遺障害につながります。

  3. (3)椅子引きで災害共済給金(障害見舞金)が給付された事例

    椅子引き事故は全国の学校で繰り返し発生しており、日本スポーツ振興センターの学校災害データベースにも多数記録されています。

    尾骨や仙骨の骨折・打撲などから障害が生じ、学校事故として災害共済給付金(障害見舞金)が支給された例も少なくありません。

    【椅子引き事故の学校災害給付事例一覧】

    年度 被害者 事故状況
    平成19年 小5・女 着席しようとした瞬間、男子児童に椅子を後方へ動かされ、座れずに転倒して臀部を強打し、打撲した。
    平成23年 小6・男 給食片付け中に他児童が椅子を移動させたことに気付かず座ろうとし、床へ転倒して左腕を打った。
    平成25年 中2・女 授業中、後方の生徒に椅子を引かれたことで座面から落下し、臀部を強く打った。
    平成27年 高1・男 バスケットボールの撮影中、シュートの踏み台として使用していた椅子を支えていた生徒が踏み込み時に椅子を動かしたため体勢を崩し、高所から肩・頸部付近を先にして床へ落下した。
    病院に運ばれ、頚椎と腰椎の圧迫骨折と診断された。
    平成30年 中3・女 部活動の昼休憩中、ぐらつく椅子に座って遊ぶ他生徒に呼ばれて座ったところ、椅子が破損し、後方へ尻もちをついた。
    令和3年 中2・男 授業中、ふざけた他生徒に座っていた椅子を後方へ引かれ、そのまま後ろに転倒して臀部を強打し、尾骨を骨折し、疼痛が残った。
    令和3年 中1・女 通路確保のため他生徒が椅子を後ろへ動かしていたことに気付かず着席しようとし、支えを失って転倒し負傷。臀部に疼痛が残った。

    参考:「学校等事故事例検索データベース 障害見舞金(令和8年1月30日時点)」(日本スポーツ振興センター)

2、椅子引きの責任は誰にある? 加害者・親・学校の法的責任

学校で椅子引き事故が発生した場合、

  • 椅子を引いた児童・生徒本人の不法行為責任
  • 年齢に応じた保護者の監督義務者責任
  • 学校の安全配慮義務違反や指導監督体制の不備

が問われる可能性があります。

以下では、椅子引き事故において想定される責任主体ごとの法的責任を説明します。

  1. (1)【加害児童・生徒】責任能力があれば「不法行為責任」を負う

    責任能力は、行為の危険性や結果を理解できる年齢(おおむね12歳程度)から認められるのが一般的です。そのため、該当年齢であれば、加害児童・生徒本人が損害賠償責任を負う可能性があります。

    特に中学生・高校生の場合、椅子引きの危険性を認識できると評価されることが多く、重大な傷害結果が生じれば本人の責任が問われるケースが高いでしょう。

    椅子引きは、相手が着席しようとする無防備な瞬間に椅子を動かす行為であり、転倒やケガを生じさせる危険性は、一般的にも容易に予測できます。そのため、椅子引きによって相手に傷害を負わせた場合、民法上の不法行為(民法709条)が成立する可能性があります。

  2. (2)【加害者の親】子どもの監督義務者の責任(加害児童・生徒がおおむね12歳未満)

    加害児童がまだ責任能力を十分に備えていない年齢(おおむね12歳未満)の場合、民法714条に基づき保護者が「監督義務者」として損害賠償責任を負う可能性があります。

    監督義務者責任は、

    • 子どもが他人に損害を与えたこと
    • 監督義務違反があること

    が要件となります。

    学校内の事故であっても、親の責任がないわけではありません。たとえば、日頃から危険行為を繰り返していた、乱暴な行動傾向があったなどの場合には、家庭での指導不足が問題視される可能性があります。

  3. (3)【国公立学校】国家賠償責任等を負う

    国公立学校で発生した椅子引き事故では、教職員・学校の安全配慮義務違反や指導監督体制の不備が認められる場合、学校の設置者である国または地方自治体が損害賠償責任を負う可能性があります(国家賠償法1条)。

    学校には児童・生徒の安全を確保する義務があり、

    • 危険なふざけ行為の防止指導
    • 教室内の安全確保
    • 事故発生時の即時対応

    などが求められます。

    椅子引き行為に対して、学校側が十分な指導や注意喚起を行っていなかった場合には、安全配慮義務違反が認められる可能性があります。

  4. (4)【私立学校】使用者責任等を負う

    私立学校の場合は国家賠償法ではなく、民法715条の「使用者責任」や学校契約上の安全配慮義務違反が問題となります。

    教職員は、学校法人の業務として児童・生徒を指導監督しているため、教職員の指導監督不足によって事故が発生した場合には、学校法人が使用者責任として損害賠償責任を負う可能性があります。

    また、学校には在学中の安全確保義務がありますので、椅子引きのような危険行為を防止できなかった場合、この契約上の安全配慮義務違反が認められる余地があります。

3、子どもが椅子引き被害に遭ったら|親が取るべき対応と流れ

椅子引き事故が発生した場合、初動対応の適切さによってその後の補償に大きな差が生じます。学校任せにするのではなく、保護者が医療・記録・学校対応・補償手続を段階的に進めることが重要です。

以下では、椅子引き事故の被害に遭った際に保護者が取るべき対応を説明します。

  1. (1)病院を受診し、通院記録・診断書を残す

    椅子引きによる転倒では、外見上軽傷に見えても尾骨骨折や脊椎損傷が隠れていることがあります。そのため、痛みが続く場合や転倒の衝撃が強かった場合は、速やかに整形外科などの医療機関を受診することが重要です。

    受診の際は、

    • 学校で椅子を引かれて転倒したこと
    • どのように打ったか
    • 痛みの部位や症状

    を医師に正確に伝えましょう。

    「診断書」や「診療記録」は、後に災害共済給付金の申請や損害賠償請求を行う際の重要な証拠になります。

    受診間隔が空いたり途中で通院をやめたりすると、事故との因果関係が争われることもあるため、医師の指示に従って継続通院することが大切です。

  2. (2)状況を記録(いつ、どこで、誰が、目撃者はいるか等)

    事故の経緯は時間がたつほど曖昧になり、学校や加害側との認識に差が生じることがあります。そのため、できるだけ早い段階で事故状況を記録しておくことが重要です。

    記録しておくべき主な内容は、以下のとおりです。

    • 事故の日時・場所
    • どのように椅子を引かれたか
    • 加害児童・生徒の氏名
    • 目撃していた児童・生徒
    • 担任をはじめとした教職員の対応
    • 子どもの症状経過

    子ども本人の説明は、時間とともに変わることがあるため、当日のうちにメモやボイスレコーダー等で聞き取り記録を残しておくと有効です。可能であれば学校への報告内容や連絡帳・メールなども保存しておきましょう。

  3. (3)災害共済給付金の申請

    学校管理下の事故でケガをした場合、日本スポーツ振興センター(JSC)の「災害共済給付制度」により、医療費や、後遺障害への障害見舞金が支給される可能性があります。椅子引き事故は、典型的な学校事故に該当するため、多くの場合、支給対象となります。

    申請は、学校を通じて行う仕組みです。保健室での措置などにより、教職員がケガの事実を把握していれば、災害共済給付金の手続きの書類や申請の案内が行われるのが通常です。「案内がないな?」と思ったら、遠慮せずに確認しましょう。

    なお、災害共済給付はあくまで公的補償であり、損害の全額が補填されるわけではありません。後遺障害が発生していたり、長期治療が必要となったりした場合には、加害者側への損害賠償請求と併せて検討することが重要です。

  4. (4)学校へ事実調査と加害児童生徒への指導を求める

    椅子引き事故では、学校側が「ふざけ合い」「子ども同士のトラブル」と軽く扱うケースも少なくありません。しかし、椅子引きは、重大な危険行為であり、再発防止や責任追及のためにも学校による正確な事実確認が必要です。

    保護者としては、学校に対し

    • 事故状況の調査
    • 目撃児童生徒への聞き取り
    • 加害児童生徒への指導内容
    • 再発防止策

    を文書または面談で確認するとよいでしょう。

    事故の認識が曖昧なまま時間が経過すると、責任も曖昧となり賠償に関する交渉が難しくなるため、早期に学校の公式見解を確認することが重要です。

  5. (5)加害者の親との交渉│治療費や損害賠償請求

    椅子引きによるケガで医療費や通院負担が生じた場合、加害児童生徒または保護者に対して損害賠償を求めることができます。

    対象となる主な損害は、以下のとおりです。

    • 治療費、通院交通費 ※JSCからの給付があった場合は控除
    • 入院関係費、付添費
    • 慰謝料
    • 後遺障害が残った場合の逸失利益など

    ただし、学校事故では感情的対立が生じやすく、保護者同士の直接交渉が難航することもあります。また、学校の責任が関係する場合は、加害者側だけでなく学校側との調整も必要になります。

    そのため、重傷事故や後遺障害が疑われる場合、または学校・加害者側の対応に不安がある場合は、早期に弁護士へ相談することが望ましいでしょう。

4、椅子引きトラブルで弁護士ができること

学校で椅子引きに関するトラブルが生じた場合、弁護士に相談をすれば以下のようなサポートが受けられます。

当事者同士での対応は、感情的な対立が生じるケースも多いため、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)証拠収集のサポート

    学校事故では、事故の瞬間を示す客観的証拠が乏しいことも多く、時間の経過とともに事実関係が不明確になりがちです。十分な証拠がない状態では、加害者や学校側の法的責任追及が困難になりますので、早期に適切な証拠を確保することが重要になります。

    弁護士は、損害賠償請求に必要となる以下のような証拠の整理・収集をサポートします。

    • 診断書、診療記録の取得整理
    • 学校の事故報告書や調査資料の確認
    • 目撃児童生徒の証言整理
    • 学校への照会、資料開示請求
  2. (2)学校や加害者側との交渉の同席や代理

    学校側や加害者の保護者に対して真摯な説明や補償を求めても、対応に納得できないケースもあるでしょう。しかし、保護者が単独で交渉を進めると感情的な対立が起こりやすく、適切な解決が難しくなることがあります。

    弁護士は、

    • 学校との事実確認面談への同席
    • 加害者側との交渉代理
    • 学校責任の有無の法的整理

    などを行い、保護者の方を実務的・精神的にサポートします。

    また、「弁護士に全面依頼するほどではないが対応に不安がある」という場合には、交渉方針や主張内容についてアドバイスのみ受けることもできるので、まずは相談することをおすすめします。

  3. (3)損害賠償請求(治療費・慰謝料など)の法的手続き

    椅子引き事故でケガや後遺障害が生じた場合、加害児童生徒・保護者や学校に対し損害賠償請求を行うことができます。しかし、学校事故では責任主体が複数となることもあり、請求先や過失割合の整理が難しいケースがあります。

    弁護士は、

    • 加害者側への賠償請求
    • 保護者の監督義務責任の追及
    • 学校の安全配慮義務違反の検討

    を行い、適切な請求先を法的観点から整理します。

    交渉で解決しない場合には、調停や訴訟などの法的手続を通じて適正な補償獲得を目指すことも可能です。

  4. (4)適正な後遺障害等級認定のためのアドバイス

    椅子引き事故では、尾骨・仙骨・腰椎・脊髄などの損傷により、痛みや機能障害が長期間残ることがあります。このような事案では、後遺障害等級が認定されるかどうかによって将来の補償額が大きく変動します。

    弁護士は、

    • 症状経過の記録方法
    • 必要な検査や診断書内容
    • 後遺障害申請資料の整理

    についてアドバイスを行い、適正な障害等級認定につながるようサポートします。

    また、認定結果に納得ができないときは、不服申立てのサポートも行うことができます。

  5. (5)刑事告訴を行う場合の支援

    椅子引きは、態様によっては傷害行為として刑事責任が問題となる場合もあります。悪質性が高い、重大な後遺障害が生じた、学校や加害者側の対応が不誠実であるといったケースでは、損害賠償請求と併せて、刑事告訴も検討していきましょう。

    弁護士は、

    • 刑事責任の成立可能性の判断
    • 告訴状の作成
    • 警察への提出、対応

    などを支援します。

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5、まとめ

椅子引きは、子ども同士の悪ふざけとして見過ごされがちですが、転倒による骨折や後遺障害といった重大事故につながる危険な行為であり、加害児童生徒・保護者・学校それぞれの法的責任が問題となりえます。

被害に遭った場合は、医療記録や事故状況を適切に残し、学校や加害者側との対応を冷静に進めることが重要です。

もっとも、学校事故は、責任関係が複雑で感情的対立も生じやすいため、適正な補償、賠償を受けるには専門的な知識が欠かせません。子どもの椅子引き事故でお悩みの保護者の方は、学校問題専門チームの弁護士が在籍するベリーベスト法律事務所へ早期にご相談ください。適切な解決に向けてサポートいたします。

この記事の監修者
米澤 弘文

ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士  米澤 弘文

所属:東京弁護士会  登録番号:53503

学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。

  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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