「原級留置(留年)」とは、学習の達成度や出席日数などが十分でないと判断された場合に、進級が認められず同じ学年にとどまる制度です。
ご自身の子どもが留年になるのではと不安を感じている方もおられるかもしれませんが、ケースにより異なるため一概には言えません。
今回は、原級留置の仕組みや不登校との関係、公立・私立での違い、進級判断に納得できない場合の対策を、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
原級留置(留年)とは、どのような制度なのでしょうか。以下では、原級留置の基本的な仕組みや目的、法的根拠について説明します。
原級留置とは、生徒が次の学年に進級できず、同じ学年にとどまる措置をいいます。「留年」「落第」という通称で呼ばれることもありますが、学校教育法上の正式名称は「原級留置」です。
学校教育法施行規則では、当該学年の教育課程を修了したと認められない場合に、校長が進級を認めないことができると示しています。
原級留置の大きな特徴は、
・国として明確な進級基準が存在しないこと
・進級の可否は校長が総合的に判断すること
です。
原級留置は、当該生徒の学習の理解度、提出物の提出状況、出席状況、心身の状態、担任・学年会議の意見など、複数の要素を踏まえて判断されます。
原級留置は、成績が低い生徒を「落とす」処分的な制度ではありません。文部科学省が示す目的は、以下のとおりです。
つまり原級留置は、子どもにとって必要なサポート期間を設けるための例外的な措置です。
ただし、学校によって運用方針が異なるため、私立校では成績・出席の基準が厳しい場合もあります。
原級留置の根拠は、学校教育法および文科省教育課程部会の審理にあります。
① 学校教育法・同施行規則
学校教育法施行規則57条では、小学校における各学年の課程修了または卒業認定は、児童の平素の成績を評価して行うとされており、同79条により中学校にも準用されています。
学年の修了認定および進級の判断は、校長の権限とされているため、校長が修了を認めないと判断すれば、原級留置という決定が可能となります。
② 文部科学省
文部科学省の教育課程部会では、日本の進級制度を以下の4つに分類しています。
参考:「(参考)履修主義と修得主義、年齢主義と課程主義」(文部科学省)
このうち、原級留置の制度的根拠は「④課程主義」にあります。
つまり、学年の課程を修了したと認められない場合、制度上は原級留置(進級させないこと)が可能になります。
ただし、文科省は明確に、“制度上は原級留置を想定しているが、運用は年齢主義が基本である”と述べています。その理由として、義務教育段階で原級留置を行うと児童生徒への負担が大きく、保護者の理解も得にくいことが挙げられています。
前述のとおり、文科省は不登校を理由にただちに原級留置とする扱いを否定しています。しかし不登校の児童生徒は年々増加しており、「不登校だと留年になるのでは?」と不安になる保護者の方もおられるでしょう。
以下では、不登校と原級留置の関係を、最新の統計と文科省の方針を踏まえて説明します。
文部科学省の調査では、不登校の児童生徒数がここ数年で大幅に増加しており、いまや小中高を合わせると40万人規模に達しています。
以下は、直近5年間の不登校児童・生徒数の推移です。
| 令和2年度 | 令和3年度 | 利和4年度 | 令和5年度 | 令和6年度 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 小学校 | 6万3350人 | 8万1498人 | 10万5112人 | 13万370人 | 13万7704人 |
| 中学校 | 13万2777人 | 16万3442人 | 19万3936人 | 21万6112人 | 21万6266人 |
| 高校 | 4万3051人 | 5万985人 | 6万575人 | 6万8770人 | 6万7782人 |
参考:「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果の概要」(文部科学省)
このように不登校が増加している一方で、不登校の高校生のうち原級留置になったのは2963人で、不登校の高校生全体の4.4%にとどまっています。つまり、不登校だからといってただちに原級留置になるわけではありません。
不登校であっても、以下のような事情がある場合には、出席日数が少なくても進級が認められるケースが多くあります。
対面授業に出席できない場合でも、一定以上の学びの機会が確保されていたケースでは、学校は進級を認めることができます。
文科省は、不登校児童生徒の進級や卒業を判断する際、保護者の意向や子どもの状況に十分配慮することを明示しています。
特に、いじめが原因となる不登校の場合には、欠席を柔軟に認め、後の学習に支障が出ないよう学校側が適切に配慮することが求められています。
また、欠席日数が長く学習の遅れを心配する保護者から、補充指導や進級留保に関する相談がある場合は、学校はその要望を踏まえて柔軟に対応すべきとされています。進級や卒業の判断に際しては、事前に保護者の意向を確認することが重要とされており、不登校を理由に一方的に不利益が生じることがないよう運用することが文科省の方針です。
原級留置の可能性は、公立か私立か、また中学か高校かによって大きく異なります。
公立中学校では、原級留置は極めて例外的である一方、私立中学や高校では、学習成績や出席状況によって留年が現実に起こり得ます。
以下では、それぞれの学校種でどの程度原級留置の可能性があるのかを説明します。
一般に「留年」や「落第」と呼ばれているものは、法律上は原級留置を指します。
ただし、学校の措置が原級留置に該当するかどうかの判断については、学校教育法や文科省の通知を踏まえつつ、校則や進級規定をしっかりと確認することが重要です。
公立中学校では、文科省が「運用としては年齢主義が基本」と示しているため、原級留置はほとんど行われません。欠席が多い場合でも、別室指導や在宅での学習状況を踏まえて進級を判断することが求められており、不登校を理由に機械的に留年とすることは認められていません。
また、公立校の進級判断には校長の裁量がありますが、その裁量は慎重に行使されるべきとされており、判断が客観性や合理性を欠く場合には、違法と判断される可能性もあります。
私立中学校は、公立校と異なり各学校が独自に進級基準を定めることができるため、原級留置が行われる可能性があります。
多くの私立校では、一定の学力水準や学習態度を維持することを教育方針としており、成績不振や出席日数の著しい不足、提出物の未提出などが続くと、進級基準を満たさないと判断される場合があります。また、内部進学制度のある学校では、基準を下回ると留年や内部進学取り消しが行われることもあります。
ただし、私立校であっても、進級判断には合理性が必要であり、説明が不十分なまま留年を決定することは適切とは言えません。基準の運用に不満がある場合には、第三者の視点から判断の妥当性を検討する余地があります。
高校は義務教育ではなく、単位制と修得主義が基本となるため、中学校に比べて原級留置が現実に起こりやすいと言えます。
各科目の単位を修得できなかった場合や欠席が多かった等の場合は、学年全体を進級できず留年となることがあります。
学校から原級留置を告げられた場合、「本当に妥当なのか」「撤回してもらえないのか」と考える保護者の方もいるでしょう。
以下では、原級留置に対して弁護士がどのようなサポートができるかを説明します。
弁護士は、学校側の原級留置の判断が法的に妥当かどうかを判断します。
公立校の場合は校長の持つ裁量の範囲が特に厳しく制限されるため、弁護士が入ることで不当な原級留置であるかどうかを明確にできます。
私立は、公立よりは学校法人の持つ裁量が広いものの、適正であるかの判断は難しいところです。疑わしい場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
学校との話し合いは、保護者だけでは難しいことがあります。
弁護士が同席または代理として交渉に入ることで、以下のような対応を促すことができます。
「学校の説明が曖昧」「一方的に決められてしまった」というケースでも、第三者である弁護士が介入することで話し合いが前進することがあります。学校の対応に疑問がある場合には、あきらめずに相談することをおすすめします。
公立学校の場合、原級留置の処分に納得できない場合は「教育委員会への申出・不服申し立て」が可能です。
弁護士に依頼をすれば以下を具体的に助言し、必要書類の作成もサポートします。
弁護士の関与によって、教育委員会が学校の判断を再度検証し、結論が覆る可能性もあります。
一方、私立学校は行政機関ではないため、教育委員会ではなく、都道府県の私学担当部局等に相談・指導要請を行います。
弁護士は、適切な窓口との代理交渉はもちろん、どこに申し立てをすべきか、どのような申し出が有効かもアドバイスします。
公立学校での原級留置は、行政処分にあたるため、不当と判断される場合には行政訴訟によって撤回を求めることもできます。
行政裁量の範囲を超えた判断、手続きの不備、配慮義務違反などが認められれば、処分が取り消されることがあります。
弁護士は、訴訟の可否判断をした上で、必要資料の収集、訴訟対応を行い、法的観点から留年の取り消しを求めます。
私立学校は行政機関ではないため、原級留置の争いは「民事訴訟(学校法人への損害賠償・地位確認など)」として扱われます。
弁護士は、
・校則や契約の内容が適切に運用されているか
・教育上の裁量が不当に行使されていないか
・説明義務・配慮義務を尽くしているか
などを検証し、必要に応じて学校法人に対する撤回請求を行います。
内部基準が曖昧な場合や手続きに問題があった場合、撤回が認められる余地があります。
参考
学校での問題・トラブルの
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原級留置(留年)は、学習状況や出席日数などを踏まえて校長が判断する制度ですが、公立・私立、中学・高校によって運用は異なります。
もし学校から留年を示唆された場合、その判断が本当に妥当なのか、手続きに問題はないのかを早めに確認することが大切です。弁護士は、学校との交渉や教育委員会への申出、撤回請求のサポートまで幅広く対応いたします。
原級留置に不安を感じたら、ベリーベスト法律事務所の学校問題専門チームへご相談ください。お子さまの進級と将来を守るため、最適な解決策をご提案します。
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
米澤 弘文
所属:東京弁護士会 登録番号:53503
学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。
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