保育園・幼稚園の弁護士コラム

【裁判例】保育園の窒息事故(食物の誤嚥)│保護者の対応策は?

  • 保育園・幼稚園
更新日:2025年11月27日 公開日:2025年11月27日
【裁判例】保育園の窒息事故(食物の誤嚥)│保護者の対応策は?

保育園・幼稚園における、食物の誤嚥(ごえん)による窒息事故は、わずかな対応の遅れが命とりになる重大事故です。

特に5歳以下の子どもに多く発生しており、過去には保育所に対して多額の損害賠償が認められた裁判例もあります。

この記事では、窒息事故の統計、保育施設の責任が問われた事例、事故後に保護者がとるべき法的対応策について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、子どもの窒息事故(食物の誤嚥)は5歳以下が9割

子どもの窒息事故は、実は多くが家庭や保育施設での食事中に発生しています。

特に、食物が気管に入ってしまう「誤嚥(ごえん)」による窒息は、年齢が低いほどリスクが高く、統計上も5歳以下が大半を占めています。

以下では、年齢別の発生状況と事故の原因となる食品について説明します。

  1. (1)【統計】5歳以下に多い食物の窒息事故

    消費者庁の調査によれば、食物による窒息事故の約9割は5歳以下の子どもに集中しています。その中でも、0~2歳の乳幼児に事故がもっとも多く、全体の過半数を占めています。

    この時期の子どもは、噛んだり飲み下したりする機能がまだ十分に発達しておらず、歯も生えそろっていないため、食べ物をうまく食べることができません。また、食事中に歩き回ったりおしゃべりをしたりと、注意力が散漫になりやすい行動も重なり、窒息リスクが高まります。

    そのため、特に低年齢児を預かる保育園や幼稚園では、食事の内容や提供方法に細心の配慮が求められるのです。

  2. (2)事故の原因となった食品類は?

    誤嚥による窒息事故は、特定の食品が原因となるケースが多く報告されています。代表的な食品には以下のようなものがあります。

    • ピーナッツなどの豆類
      硬く乾燥しているため、乳幼児が飲み込むのは難しく、わずかな量でも気道をふさいでしまうことがあります。
    • ぶどう、ミニトマトなど丸い果物
      直径1〜2センチメートルの丸い果実は喉にすっぽりと詰まりやすく、噛まずに飲み込むと窒息に直結します。
    • りんご、にんじんなどの固形野菜や果物
      生のまま与えると噛み砕きにくく、子どもにとって危険な食品の代表例です。
    • ウインナー、ソーセージなどの加工肉
      弾力があり飲み込みにくい上、誤嚥によって重篤な後遺症につながることもあります。
    • もち、だんご類
      粘着性が強く喉に張り付きやすいため、大人でも窒息事故の原因となりやすい食品です。

    このような食品の特徴は、「丸い」「硬い」「弾力がある」「粘り気が強い」という共通点があります。保護者や保育施設は、細かく刻む・やわらかく調理するなどの工夫を行い、子どもの発達段階に合った食事提供を徹底することが重要です。

2、【裁判例】保育園・幼稚園での窒息・誤嚥事故

保育園や幼稚園で発生した窒息事故では、保育士の監督義務や安全配慮義務の有無が問われ、施設に高額の損害賠償が命じられたケースもあります。ここでは、代表的な2つの裁判例を紹介します。

  1. (1)りんご片を詰まらせ窒息事故。市立保育園と2億7000万円で和解

    【事案の概要】
    広島県福山市立の保育所で、当時1歳の園児が給食中に窒息状態となり、意識不明の重体に陥りました。保育士が眠りかけた子どもを抱き上げた際、泣いて息を吸い込んだ瞬間に、口の中のりんご片が気道に詰まったとされています。現在も子どもは意識が回復せず、福祉施設で療養を続けています。

    【争点】
    保育所が1歳児に適した食材提供・安全管理をしていたか、また食事中の監督体制に過失があったかどうかが争点となりました。

    【経過と和解案】
    保護者は、令和4年に市を提訴しました。裁判所は、令和7年に和解を勧告し、福山市は同年5月、市議会常任委員会で保護者に謝罪した上、2億7000万円を支払う和解案を提示しました。

    この事故は、「調理・食材提供方法」「食事中の監督体制」という施設運営上の安全配慮義務違反が問われた事案であり、保育所を設置・運営する自治体の責任を認める形で多額の賠償金の支払いを内容とする和解が示された点で注目されます。

  2. (2)ウインナーを誤嚥。後遺症から寝たきりに。幼稚園に賠償命令

    【事案の概要】
    埼玉県の学校法人が運営する幼稚園で、当時4歳の男児が昼食中にウインナーを誤嚥し、心肺停止に陥りました。救急搬送されましたが、重篤な後遺症が残りました。

    【争点】
    原告である家族は、誤嚥事故後に適切な心肺蘇生(CPR)が行われなかったことが安全配慮義務違反にあたると主張し、幼稚園を運営する学校法人や教諭らに約5億4000万円の損害賠償を求めました。

    【裁判所の判断】
    裁判所は、教諭らが当初は異物除去を優先して背部叩打法を行った点について「一定の合理性がある」としつつ、その後も改善せず顔色や意識の異常が確認できた時点で、速やかに心肺蘇生を行うべきだったと指摘。結果的に一部対応に安全配慮義務違反があったと認定し、計550万円の賠償を命じました。

    この事案は、「仮にこの時点で心肺蘇生が行われていても、後遺症が残らなかったとは断定できない」とし、安全配慮義務違反と後遺症との因果関係を否定し、高額の賠償請求までは認めませんでした。

3、窒息事故防止・発生時のためのガイドライン

保育園や幼稚園での窒息事故を防ぐため、国は複数のガイドラインを策定しています。

特に、「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」は、食物の誤嚥を含む重大事故を踏まえて作られたものです。以下では、ガイドラインの概要と誤嚥事故防止のポイントを説明します。

  1. (1)保育園の窒息事故から発出した「重大事故にかかるガイドライン」とは?

    平成28年3月、こども家庭庁は「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」を策定しました。

    このガイドラインは、保育所や幼稚園での重大事故が相次いだことを受け、保育施設が体系的に事故防止に取り組めるよう整理したものです。

    【「教育・保育施設等における事故防止及び事故発生時の対応のためのガイドライン」に定められた主な概要】
    • 事故発生の未然防止策(食事の安全管理、保育士の配置など)
    • 事故が起きてしまった場合の初動対応(救命措置、119番通報、保護者への連絡)
    • 事故後の検証と再発防止策の共有(再発防止策の策定、職員などへの周知徹底)

    特に、食物による誤嚥事故については「発達段階に応じた食品提供」や「窒息リスクの高い食材への注意」が強調されており、園内での研修やチェックリストの整備が推奨されています。

  2. (2)各種のガイドラインが示す誤嚥事故防止のポイント

    ガイドラインでは、食事中の誤嚥を防ぐために、職員が子どもの発達状況や健康状態を把握することが求められています。

    誤嚥事故防止の観点からは、以下の点が重要なチェックポイントとされています。


    誤嚥事故防止のチェックポイント(食事関連)
    □ 保護者から聞き取った健康状態や食行動の情報を職員間で共有しているか?
    □ 子どもの年齢にかかわらず、普段食べ慣れた食材でも窒息の危険性があると認識して観察しているか?
    □ 子どもの意志に合ったタイミングで、ゆっくり落ち着いて食べられるよう配慮できているか?
    □ 一度に多くの量を口に入れないようにしているか?
    □ 食べ物を飲み込んだかを確認(口に残っていないか観察)しているか?
    □ 汁物などを適切に与え、飲み込みやすくしているか?
    □ 食事中に子どもを驚かせないよう配慮しているか?
    □ 食事中に眠気がないか観察しているか?
    □ 子どもが正しい姿勢で座っているか確認しているか?
    □ 食事中は継続的に観察し、誤嚥が起きた場合には迅速な気付きと救急対応をできているか?
    □ 過去に事故があった食材(例:白玉だんご、丸ごとのミニトマト等)は使用を避けているか?

    このようにガイドラインでは、「食事前の情報共有」「食事介助時の具体的観察ポイント」「危険食材や玩具の排除」を細かく指示しています。

    もし施設側がこれらを怠り事故が発生した場合、安全配慮義務違反として法的責任を問える可能性があります。その際には、弁護士に相談しながら責任追及の可否を判断することをおすすめします。

4、窒息事故が起こってしまったら│法的手段と対応策

保育園や幼稚園で窒息事故が起きてしまった場合、保護者にとって最優先すべきは「子どもの命と健康の確保」ですが、その後は事故原因の究明と施設側の責任追及を進めていかなければなりません。以下では、窒息事故発生後に取り得る対応策を説明します。

  1. (1)弁護士にアドバイスを求める

    事故直後は、施設側が事故の詳細を十分に説明しない場合や保護者が冷静に判断できない場合があります。そのため、初期段階から弁護士に相談するようにしましょう。

    弁護士に相談することで、
    ・事故原因の調査方法
    ・施設への対応要請の仕方
    ・証拠をどのように収集・保存するべきか
    について具体的なアドバイスをもらうことができます。

    今後の損害賠償請求や刑事責任追及に備えるためにも、早い段階で弁護士の関与を得ることが望ましいといえます。

  2. (2)【民事・刑事・行政】事故の責任追及について確認

    保育園や幼稚園で窒息事故が発生した場合、園側に以下の責任を追及できる可能性があります。


    民事責任 安全配慮義務違反が認められる場合、園を運営する法人や自治体に対して損害賠償請求を行うことができます。死亡や重度の後遺症事案では、高額賠償に至るケースもあります。
    刑事責任 園側の過失が重大であれば、業務上過失致死傷罪が成立する可能性もあります。警察による捜査対象となるケースもあるため、刑事告訴を検討する必要があります。
    行政責任 重大事故の場合、園には行政への報告義務があります。事案によっては、監督官庁による改善指導や行政処分が下されることもあります。
  3. (3)保育施設に説明や事故報告書の写しを求める

    保育園や幼稚園には、事故発生時に事故報告書を作成・提出する義務があります。

    保護者は園に対し、以下の情報開示や説明を求めることができます。

    • 事故の状況説明
    • 事故報告書の開示
    • 職員の対応記録
    など

    これらは後の法的手続きにおいて重要な証拠となります。保育施設との話し合いが不安な際は、弁護士に同席を依頼するなどサポートを求めましょう。

  4. (4)必要に応じて情報、証拠収集

    事故現場の状況や当時の対応について、次のような証拠を集めることが有効です。

    • 事故現場の写真
    • 医師の診断書・救急搬送記録
    • 他の保護者や職員の証言
    • 日誌や保育記録
    など

    弁護士と相談しながら、法的に有効な形で証拠を確保していきましょう。

  5. (5)損害賠償請求手続きを進める

    保育園や幼稚園の法的責任が明らかになった場合は、損害賠償請求を行います。

    損害賠償の範囲には、主に以下の4つが含まれます。

    • 治療、入院費:診療費、治療費、付添を含む入院雑費、通院交通費など
    • 逸失利益:子どもが将来働いて得られたはずの収入
    • 休業損害:治療などのために保護者が仕事を休んで発生した損害
    • 慰謝料:事故に伴い、子ども本人・保護者が受ける精神的な苦痛

    特に、後遺症が残った場合には、長期にわたる付添費用や逸失利益も請求することが可能です。

保育園・幼稚園トラブルの
法律相談予約はこちら

無料
通話
0120-187-059
電話受付平日・土日祝ともに 9:30 〜 18:00

5、まとめ

保育園や幼稚園での窒息事故は、子どもの命に関わる深刻な問題です。

過去の裁判例では、りんご片やウインナーによる誤嚥事故で、保育施設の安全配慮義務違反が認められ、高額の賠償や和解に至った事例が存在します。国のガイドラインでも、食事介助の方法や継続的な観察など具体的な防止策が示されていますが、現場で徹底されず事故につながることも少なくありません。

万が一窒息事故が発生した場合、証拠収集や保育施設への説明請求など、迅速かつ適切な対応が必要です。そのためには弁護士への相談が有効です。保育園で誤嚥による窒息事故が起きたときは、学校・保育園問題の専門チームを有するベリーベスト法律事務所にご相談ください。

この記事の監修者
米澤 弘文

ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士  米澤 弘文

所属:東京弁護士会  登録番号:53503

学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。

  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

保育園・幼稚園のコラム

学校での問題・トラブルの
法律相談予約はこちら

無料
通話
0120-187-059
電話受付平日・土日祝ともに9:30〜18:00
無料
通話
0120-187-059
平日・土日祝ともに9:30〜18:00