校内暴力とは、学校内で児童生徒が行う暴力です。1980年代初頭に社会問題として注目され、ピークに達した後は減少傾向にありましたが、令和のいま、再び増加傾向にあります。
文部科学省の調査によると、近年は、発生件数が過去最多を更新し続けており、教師と生徒間の暴力や生徒同士のトラブル、器物損壊などその内容も多様化しています。
今回は、校内暴力の実態や暴力行為に該当する具体例、子どもが加害者・被害者になった場合に取り得る対応策について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
校内暴力といえば、昭和の非行少年・少女を思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし文部科学省の調査によれば、令和に入ってから校内暴力は増加傾向が続いており、全国的な課題となっています。
以下では、令和に校内暴力が増加する理由・原因について説明します。
文部科学省が公表している調査によれば、令和5年度には、全国の小学校・中学校・高等学校における暴力行為の発生件数の総数が約10万件を超え、平成9年度の調査開始以降過去最多を更新しました。
| 暴力行為の発生件数 | 前年比 | |
|---|---|---|
| 小学校 | 7万9件 | 113.9% |
| 中学校 | 3万3617件 | 113.1% |
| 高等学校 | 5361件 | 125.4% |
参考:「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」(文部科学省)
かつては中高生の問題とされていた校内暴力が、小学校低学年でも多く報告されています。また、高等学校では停学・退学につながる事案も目立っています。
同調査に基づいて暴力行為の発生件数を公立校と私立校で比較すると、公立校の方が件数・発生率ともに高い状況です。
以下は、令和5年度の調査に基づき、公立・私立別に暴力行為の「発生学校数」「発生学校数の割合」「1000人当たりの発生件数」を整理したものです。
| 発生学校数 | 発生学校数の割合 | 1000人あたりの発生件数 | |
|---|---|---|---|
| 公立 | 3万1697校 | 43.0% | 9.6件 |
| 私立 | 2509校 | 37.0% | 2.1件 |
参考:「令和5年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について」(文部科学省)
私立校でも一定数の発生はあるものの、公立校に比べると割合・発生率ともに低くなっています。これは私立校の生徒数の少なさや校風の影響も考えられますが、一方で報告の仕方に差がある可能性も指摘されています。
校内暴力が増えている背景には、複数の要因が複合的に作用しているとみられ、文部科学省の有識者会議などでも、次のような点が指摘されています。
参考:「暴力行為のない学校づくりについて(報告書)」(文部科学省)
このように、児童生徒を取り巻く家庭、学校、社会環境の変化に伴う多様な問題が背景にあり、校内暴力の増加を後押ししていると考えられます。
「校内暴力」と一口にいっても、その対象や内容は多岐にわたります。文部科学省では、児童生徒の暴力行為を明確に定義した上で、対象に応じて4つに分類しています。
以下では、まず定義を確認し、それぞれの具体例を見ていきましょう。
文部科学省によると、暴力行為とは「自校の児童生徒が、故意に有形力(目に見える物理的な力)を加える行為」を指すと定義されています。そして、校内暴力は、対象によって、以下の4つに分類されます。
| 校内暴力の種類 | |
|---|---|
| 対教師暴力 | 教師だけでなく、用務員など学校職員に対する暴力行為 |
| 生徒間暴力 | 何らかの人間関係のある児童生徒同士での暴力行為 |
| 対人暴力 | 教師や生徒を除く第三者に対する暴力行為 |
| 器物損壊 | 学校の施設・設備、備品などを故意に壊す行為 |
参考:「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査-用語の解説」(文部科学省)
なお、家庭内での暴力(家族や同居人に対する行為)は、対象外とされています。
教師や学校職員に対して行われる暴力は「対教師暴力」とされます。具体例は次のとおりです。
小学校低学年からの報告も増えており、児童が自制心をコントロールできない場合や、家庭での養育環境が影響しているケースも見られます。
生徒同士のトラブルは校内暴力のなかでも多く見られる類型です。また同じ学校の生徒同士に限らず、他校の生徒同士の間でも暴力行為は起こり得ます。
具体的には、次のような場面が想定されます。
これらはいずれも「生徒間暴力」として扱われ、学校側は事案の程度に応じて指導をしたり、停学などの処分を行ったりすることになります。
なお教師や生徒間以外での暴力行為は「対人暴力」とされ、たとえば帰宅途中で他人に暴力をふるった場合などが分類されます。
暴力行為は対人だけでなく、学校設備や備品を故意に壊す「器物損壊」も含まれます。
具体例は以下のとおりです。
被害額が高額になる場合もあり、生じた損害を賠償しなければならない場合もあります。
子どもが校内暴力の加害者となってしまった場合、学校はその行為の内容や程度に応じて処分を行います。処分は、軽微な指導から退学に至るものまで幅広く、場合によっては刑事責任や損害賠償責任を問われることもあります。
以下では、代表的な処分内容を説明します。
比較的軽度の暴力行為であれば、まずは学校内での指導にとどまるケースがあります。具体的には、反省文の提出、校内での清掃活動などの奉仕活動、保護者を交えた面談などです。
これらは本人に自らの行為を省みさせ、再発を防ぐことを目的としています。ただし、繰り返し暴力を行った場合や改善が見られない場合には、より重い処分に移行します。
暴力の程度が重い場合や、他の生徒に危害を加えた場合には「停学」となることがあります。一定期間の登校を禁止され、その間は学習の機会も失われます。
本来、停学は教育的効果を期待して一時的に行われるものですが、実務上は解除の時期が明確でないまま長期間続いてしまう例もあり、子どもの学習権が不当に制限されるなどの問題になることもあります。
このような場合には、学校との交渉を行える弁護士の介入が有効です。
もっとも重い処分が「退学」です。校内暴力の内容が極めて悪質である場合や繰り返し重大な問題行為をした場合には、学校側が退学処分を下すことがあります。
しかし退学処分は、その後の進学や就職に直接的な影響を与え、子どもの将来に深刻な支障をきたすおそれがあります。
こうした事態に直面した際には、弁護士の介入が大きな助けになります。弁護士は以下のようなサポートを行います。
退学処分は「決定したら終わり」ではありません。あきらめずに、まずは弁護士にご相談ください。
校内暴力であっても、内容によっては刑事事件(少年事件)として扱われます。
ただし、14歳未満は、刑事責任を負わないと刑法で定められています。その場合は児童相談所の一時保護や児童自立支援施設での指導など、保護処分の対象となります。
一方、14歳以上の場合は刑事責任を問われる可能性があり、傷害罪や暴行罪として警察に逮捕されるケースもあります。刑事事件に発展すれば、家庭裁判所での審判への対応が必要となる場合もあり、適切な処分を求めるためにも早期に弁護士に相談することが重要です。
暴力によって他の生徒や教師にけがをさせたり、学校設備を壊したりした場合には、損害賠償責任が発生します。治療費や慰謝料、修繕費などの請求を受ける可能性があり、加害児童生徒の保護者が支払うケースが多くあります。
被害の程度によっては賠償額が大きくなることもあり、交渉がこじれると家庭への経済的負担が重くのしかかります。弁護士に相談すれば、賠償額の妥当性をチェックし、必要に応じて減額交渉を行うことが可能です。
子どもが校内暴力の被害者となった場合、心身へのダメージだけでなく、学校生活や子どもの将来にも影響を及ぼすおそれがあります。被害を軽く済ませるためには、初期対応が極めて重要です。以下では、保護者が取るべき具体的な対応を説明します。
まず必要なのは、暴力被害の客観的な証拠を残すことです。
証拠がなければその事実が認定されない可能性が生じ、後の交渉や損害賠償請求で不利になります。
次に、学校へ速やかに相談しましょう。担任や学年主任に加え、必要であれば校長にも直接伝えることが大切です。
学校には児童生徒を守る義務があるため、被害者の安全確保・加害児童生徒への指導・再発防止策の検討を求めることができます。
相談時には「口頭」だけでなく「文書」や「メール」など、記録に残る形で申し入れると後の証拠になります。
公立学校において、学校側が適切に対応してくれない、問題を軽視している、と感じる場合には、教育委員会への報告が有効です。教育委員会は学校の上位機関として、学校に対し調査や改善指導を行う権限を持っています。
一方で、私立学校の場合は教育委員会の指導対象ではないため、報告先が異なります。
私立学校の相談は、各都道府県の私立学校事務主管課(自治体によって名称は異なる)が窓口となっており、状況に応じて学校法人への指導や報告徴収が行われることがあります。
個人での対応が難しいと感じる場合は、早めに弁護士など外部の専門機関への相談も検討しましょう。
暴力行為は、刑法上の「暴行罪」「傷害罪」に該当する可能性があります。重大な被害を受けた場合や学校側が十分に動かない場合には、警察へ被害届を提出することも選択肢となります。
特に、継続的にいじめや暴力を受けているケースでは、被害届を出すことで、加害者側に強い抑止力が働くことがあります。
暴力によるけがや通院、精神的苦痛などに対しては、加害児童生徒やその保護者に損害賠償を請求できます。医療費・通院交通費・慰謝料などが対象となります。
また、防御のためにやむなく手を出した場合でも、状況次第では「正当防衛」として責任が問われないこともあります。被害者側は、不当に責任を押し付けられないよう、法的観点から対応を確認する必要があります。
校内暴力の被害に直面したら、早期に弁護士へ相談することを強くおすすめします。
校内暴力に関して弁護士は、以下のようなサポートをすることができます。
弁護士が介入することで、感情的な対立を避けつつ、被害回復を最大化できる点が大きなメリットです。
参考
学校での問題・トラブルの
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校内暴力は、小中高すべてで増加傾向にあります。もし加害者となれば停学や退学、刑事責任、損害賠償など将来に関わる処分を受ける可能性があります。
また被害に遭ってしまった場合は、心身への苦痛・損害回復のための行動が不可欠です。いずれの立場でも、専門的知見のないまま対応を誤れば不利益を被る危険があります。
そこで重要となるのが弁護士のサポートです。ベリーベスト法律事務所の学校問題専門チームは、被害者・加害者双方の立場から迅速かつ適切な解決を目指し、子どもとご家族を全力でサポートします。校内暴力でお悩みの保護者の方は、まずはべリーベスト法律事務所にご相談ください。
ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士
米澤 弘文
所属:東京弁護士会 登録番号:53503
学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。
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