保育園・幼稚園の弁護士コラム

保育園(保育施設)での死亡事故は誰の責任? 保護者がとるべき対応

  • 保育園・幼稚園
更新日:2025年10月16日 公開日:2025年10月16日
保育園(保育施設)での死亡事故は誰の責任? 保護者がとるべき対応

保育園や幼稚園などの保育施設で、子どもが命を落とす痛ましい事故が発生した場合、保護者は深い悲しみと同時に「なぜ防げなかったのか」「誰が責任を負うのか」と疑問を抱くことでしょう。

このような保育園での死亡事故に対しては、施設の運営者や保育士の過失があれば「民事責任」「刑事責任」「行政責任」を追及することが可能です。

今回は、保育施設での死亡事故の発生状況、責任の所在、損害賠償の相場、弁護士に相談すべき理由などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、保育園(保育施設)での死亡事故は微増、負傷事故は過去最多

子ども家庭庁が公表した「令和5年教育・保育施設等における事故報告集計」によると、保育園(保育施設)での死亡事故の約半数が、0歳児に集中しています。

また、保育施設の種類別でみると一部の認可外保育施設における死亡事故の割合も高く、施設の種類によって死亡事故の発生件数に大きな差があるのが特徴です。

死亡事故の発生時の状況は「睡眠中」が多く、次いで「食事中・食後」「プール活動・水遊び」などです。特に、0歳児ではうつぶせ寝による窒息など、睡眠環境の管理不足が死亡事故の要因だと考えられます。

なお、負傷事故の件数は、過去9年間で最多となりました。しかしこの増加は、制度改正により報告義務が強化されたことも一因と考えられています。

2、保育園(保育施設)・幼稚園での死亡事故は誰の責任?

保育園や幼稚園で死亡事故が発生した場合、その責任は誰に問うべきなのでしょうか。
保育園(保育施設)・幼稚園に対する責任追及をする際の、適切な相談先・法的責任の種類について解説します。

  1. (1)【一覧表】保育園(保育施設)・幼稚園の責任所在と相談先

    施設の種類 法的責任の対象 主な相談先
    公立 認定こども園 市区町村
    • 園の相談窓口
    • 市区町村の保育担当課
    • 弁護士
    認可保育所
    幼稚園
    私立 認定こども園
    • 学校法人や社会福祉法人などの設置者
    • 担当保育士
    • 施設運営者
    • 市区町村の保育担当課
    • 弁護士
    認可保育所
    幼稚園
    認可外保育施設

    保育園(保育施設)で死亡事故が発生した場合、責任の所在は、保育園が「公立」か「私立」かによって変わってきます。

    民事上の責任についていえば、公立の保育園であれば、国家賠償法に基づき、園を設置・運営している市区町村に対して死亡事故の法的責任追及をしていくことになります。原則として、保育士個人が責任を負うことはありません。

    私立の保育園であれば学校法人や社会福祉法人などの設置者、保育士に過失がある場合は保育士個人に対して責任追及をしていきます。ただし実務上は、管理体制等を考慮され、法人のみに請求を行うケースが一般的です。

    まずは、通っている園が私立なのか、公立なのかを把握することが責任追及の第一歩となります。

  2. (2)3つの法的責任とは?│民事・刑事・行政責任

    保育園(保育施設)で死亡事故が発生した場合、以下のような3つの法的責任が問題となります。

    ① 民事責任|損害賠償責任
    施設の過失によって園児が死亡した場合、遺族は、市区町村または運営法人や職員に対して損害賠償請求(慰謝料・逸失利益など)を行うことができます。

    ② 刑事責任|業務上過失致死罪など
    保育士や管理者の過失によって死亡事故が発生した場合、「業務上過失致死罪」などの刑事責任が問われます。捜査の結果、過失が明らかになれば、保育士や管理者に対しては5年以下の拘禁刑または100万円以下の罰金が科される可能性があります。

    ③ 行政責任|行政指導・施設運営の停止など
    死亡事故が発生した保育園に対しては、市区町村による調査・指導が行われ、場合によっては認可取り消しなどの行政処分の対象になることもあります。
    特に、園児死亡などの重大事故の場合、行政判断は厳格なものとなるでしょう。

3、死亡事故による損害賠償請求(慰謝料含む)の相場

子どもが保育園で死亡した場合、精神的苦痛に対する慰謝料や治療・通院などでかかった費用を、損害賠償として市区町村または施設側に対して請求することが可能です。

以下では、一般的な損害賠償請求の相場や手続きの流れを説明します。

  1. (1)死亡事故の損害賠償請求の相場

    子どもが保育園で死亡した場合に保育園に請求できる損害項目としては、以下のようなものがあります。

    【遺族が請求できる損害項目】
    • 死亡慰謝料
    • 死亡逸失利益
    • 葬儀費用

    ※事故から一定の期間を経て死亡した場合
    • 治療費
    • 入院付添費
    • 入院雑費
    • 入通院慰謝料(傷害慰謝料)

    上記の損害項目のうち、金額が特に高額になるのが「死亡慰謝料」と「死亡逸失利益」です。

    死亡慰謝料は、保育園での死亡事故により生じた精神的苦痛に対して支払われます。2000~2500万円程度が相場となるのが一般的です。

    また、死亡逸失利益は、子どもが将来働いて得られるはずの収入が失われたことによる損害であり、まだ働いていない子どもでも厚生労働省が定めた賃金センサスに基づいて請求することができます。ケース・バイ・ケースですが、1億円前後の死亡逸失利益が認定されることもあり、非常に高額な賠償金となります。

    慰謝料も死亡逸失利益も、その金額に明確な相場は存在せず、個別事情(過失割合、加害者の態様、裁判地など)により変動することを覚えておきましょう。

  2. (2)損害賠償請求の手続きの流れ

    保育園での死亡事故が発生した場合、以下4つのステップの流れで損害賠償の手続きを進めていきます。

    ① 死亡事故に関する証拠収集
    保育施設内で死亡事故が発生した場合、まずは事故の詳細な状況を把握し、証拠を集めることから始めます。現場の保育記録や事故報告書、関係職員の証言、防犯カメラ映像などを確保し、事故の原因や経緯を明らかにしていきます。
    この段階で施設側が積極的に情報を開示しない場合、保護者のみで交渉することは非常に困難になるおそれがあります。早めに弁護士に相談することをおすすめします。

    ② 損害額の算定
    次に、死亡慰謝料や死亡逸失利益、葬儀費用などの損害賠償の対象となる金額を算定します。
    特に、死亡慰謝料や死亡逸失利益は、損害項目の中でも高額になるため、①で挙げたような証拠収集も大切です。
    計算方法を誤ると適切な金額より大幅に減少してしまう可能性もあるため、損害賠償請求の経験が豊富な弁護士にできるだけ早い段階で相談するようにしましょう。

    ③ 市区町村または施設側との交渉
    証拠収集と損害額の算定ができた段階で、市区町村または施設側との交渉に進みます。
    示談金額で折り合いがつけば示談成立となりますが、その際は、必ず書面(示談書)を作成することが望まれます。
    なお、市区町村が設置・運営する公立の認可保育園が相手となる場合は、国家賠償法が適用されます。示談書や合意書の形式も適式なものである必要があるため、弁護士による書面作成やチェックをすると安心でしょう。

    ④ 合意できなければ訴訟提起
    市区町村または施設側との交渉がまとまらず合意ができなければ、訴訟を提起して裁判所の判断を仰ぐことになります。
    訴訟では、保育園側の過失を証拠により立証していかなければなりません。訴訟手続きは、専門的かつ複雑な手続きですので、弁護士のサポートを強くおすすめします。

4、【裁判例】保育園(保育施設)での死亡事故

過去の裁判例を知ることで、どのような場合に施設側の責任が認められるかがわかります。以下では、代表的な2つの裁判例を紹介します。

  1. (1)認可外保育施設の昼寝の際、生後6か月の園児が死亡した事故

    • 訴えた側(原告):死亡した園児の保護者
    • 訴えられた側(被告):認可外保育施設の元施設長

    【事案の概要】
    東京都の認可外保育施設で、生後6か月の男の子が昼寝中に吐いたミルクを喉に詰まらせて窒息死しました。当時、施設には0〜5歳の園児19人が在籍し、職員は3人。事故時、職員は本来必要な5分ごとの観察を怠り、約30分間、別室で作業していました。

    【裁判所の判断】
    元施設長は業務上過失致死の罪に問われ、起訴内容を認めました。
    また、東京地方裁判所は、以下の点を重く見て、禁錮1年・執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。

    • 乳児の変化に気づけるよう、きめ細かな観察と職員への適切な指導をしていれば、窒息死は防げた
    • 過去に都の立入調査で睡眠管理の不備を指摘されていたにもかかわらず、改善策として導入を報告したチェックリストが活用されていなかった

  2. (2)認定こども園の通園バスに園児が置き去りにされ死亡した事故

    • 訴えた側(原告):死亡した園児の保護者
    • 訴えられた側(被告):バスを運転していた元園長、元担任

    【事案の概要】
    東海地方の認定こども園で、当時3歳の女の子が通園バス内に約5時間置き去りにされ、重度の熱中症で死亡しました。園児が降車する際の車内確認が行われず、女児は誰にも気づかれないまま命を落としました。

    【裁判所の判断】
    裁判所は、元園長に業務上過失致死罪として禁錮1年4か月の実刑判決、元担任に禁錮1年・執行猶予3年を言い渡しました。
    裁判長の判断のポイントは以下の通りです。

    • 園児の乗降車時の確認を怠るなど、園長は運転手として園児の安全を確保すべき義務を怠り、ずさんな安全管理を継続した
    • 園児の所在確認を怠った上、安易に欠席と判断した

    こうした点から、猶予の余地はないと述べ、厳しい判断を下しました。

5、保育園(保育施設)・幼稚園での事故│弁護士から受けられるサポートは?

保育園や幼稚園での死亡事故に直面した保護者は、深い悲しみの中で施設との交渉や責任追及を迫られることになります。

大きな精神的負担が続く中、保護者の方だけで保育園側の責任追及をしていくのは困難です。そのようなときは弁護士に相談して以下のようなサポートを受けることをおすすめします。

  1. (1)保育園側とのやり取り・交渉を一任

    弁護士に依頼すれば、事実確認や交渉を一任でき、保護者の心理的負担を大きく軽減することができます。

    特に、責任の所在が不明確なケースや施設側が調査に非協力的な場合、個人での対応には限界がありますので、園側との対応は専門家である弁護士に任せた方が安心です。

  2. (2)解決に向けた証拠収集、進め方についてアドバイスを受ける

    保育施設での死亡事故において、過失の有無を立証するためには、客観的な証拠が極めて重要です。

    具体的には、事故当日の保育記録や出席簿、職員のヒアリング記録、防犯カメラ映像、保育マニュアルや運営規定など複数の資料をもとに検証を進める必要があります。特に、施設側が情報を伏せたり、書面の開示を渋ったりするケースでは、法的な根拠に基づく開示請求が必要になる場合もあります。

    弁護士は、こうした証拠を合法的かつ効率的に集める方法をアドバイスできるほか、実際の証拠収集のサポートも可能なので、責任追及に向けた準備を着実に進めることができます。

  3. (3)損害賠償請求の手続きのサポートを受ける

    施設側との交渉は感情的な対立に発展しやすく、適切な主張を展開できなければ満足のいく補償を得られないおそれもあります。

    弁護士が代理人として対応することで、法的根拠に基づいた冷静な交渉が可能となり、万が一示談が成立しない場合でも、迅速に訴訟への切り替えができます。交渉や訴訟を適切に進めるには法的知識や経験が不可欠となりますので、死亡事故が発生したときは早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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6、まとめ

保育園や幼稚園などの保育施設で死亡事故が発生した場合、保護者は深い悲しみの中で対応を迫られます。しかし、施設の責任を追及し、再発防止や正当な補償を求めるには、法的な知識と冷静な判断が欠かせません。

事故の責任所在や法的対応、損害賠償請求に不安がある場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

ベリーベスト法律事務所には、保育・学校事故に特化した専門チームがありますので、保育園での死亡事故にも適切に対応することが可能です。保育園での死亡事故で園側の責任追及を検討中の方は、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

この記事の監修者
米澤 弘文

ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士  米澤 弘文

所属:東京弁護士会  登録番号:53503

学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。

  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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