保育園・幼稚園の弁護士コラム

【4つの事例】不適切保育とは? 子どものサインを見逃さないための方法

  • 保育園・幼稚園
2025年06月26日
【4つの事例】不適切保育とは? 子どものサインを見逃さないための方法

大切な子どもをあずける保育の現場で「不適切保育」が問題になるケースが増えています。

子どもに対する暴言や暴力、必要なケアの怠慢などその内容は多岐にわたりますが、共通するのは子どもの心身に悪影響を及ぼすという点です。

保護者としては、「もしかしてうちの子も…?」と不安を感じる場面があるかもしれません。不適切保育の定義や代表的な4つの事例、不適切保育に気付くためのサイン、相談先などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、不適切保育とは?

不適切保育に明確な法的定義はありません。しかし、近年、行政や専門機関により不適切保育の類型が整理されています。

以下では、行政や専門機関が示す「不適切保育」の考え方を解説します。

  1. (1)「不適切な保育に関する手引き(略称)」が示す5つの行為

    令和2年度子ども・子育て支援推進調査研究事業の一環として、厚生労働省の委託により作成された「不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き」では、不適切保育を以下のように定義しています。

    不適切保育とは、保育所での保育士等による子どもへの関わりについて、“保育所保育指針”に示す子どもの人権・人格の尊重の観点に照らし、改善を要すると判断される行為

    参考:「不適切な保育の未然防止及び発生時の対応についての手引き」(株式会社キャンサースキャン)
    ※“保育所保育指針”とは厚生労働省が定めた方針。(3)で後述

    具体期には、不適切保育の行為類型として以下の5つを挙げています。

    【不適切保育の5つの行為類型】

    ① 子ども一人一人の人格を尊重しない関わり

    • 「なんでそんなこともできないの?」と他の子どもと比較して非難
    • 子ども自身が嫌がるあだ名で呼び、子どもの名前を意図的に使わない

    このような関わりは、子どもの自己肯定感を著しく損ない、心の発達に悪影響を及ぼします。
    ② 物事を強要するような関わり・脅迫的な言葉がけ

    • 「ちゃんとやらないとおやつ抜きにするよ」といった脅し
    • 「静かにしないと帰らせるよ」といった脅し

    保育において必要な指導とは異なり、子どもに対する一方的な力の行使や恐怖心をあおる発言は、不適切な対応とされます。
    ③ 罰を与える・乱暴な関わり

    • 椅子に強く押し付けて座らせる
    • 声を荒らげて怒鳴る、机をたたいて威圧する

    これらは「指導」の範囲を超え、身体的・心理的虐待の予兆ともなりうる行為です。
    ④ 子ども一人一人の育ちや家庭環境への配慮に欠ける関わり

    • アレルギーや宗教上の理由による食事制限を無視する
    • 家庭での困難(言語、障がい、文化背景など)を理解せず一律対応

    子どもの個別性に配慮しない関わりは、多様性の観点から問題があるとされています。
    ⑤ 差別的な関わり

    • 国籍や障がいを理由に距離を置く
    • 一部の子だけを常に「問題児」として扱う

    こうした行為は、人権侵害に該当するおそれがあり、特に深刻な問題です。

  2. (2)こども家庭庁が示す「不適切保育(虐待)のガイドライン」

    こども家庭庁が策定した「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」では、より深刻なケースとして「虐待」に該当する可能性のある行為が示されています。

    これは児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)が定める児童虐待の定義とも共有し、以下の4類型に分類されています。


    保育所等における子どもに対する主な虐待
    身体的虐待 殴る、蹴る、激しく揺さぶる、たたく、押し倒す、戸外に閉め出す、縄などにより身体的に拘束をするなど
    性的虐待 下着のまま放置する、必要のない場面で裸や下着の状態にする、性器を見せる等のわいせつ行為、わいせつな発言や会話を本人の前でする、裸や下着での写真撮影の強要など
    ネグレクト(育児放棄) 体調を崩した子どもに看護を行わない、泣き続ける子どもを長時間放置する、着替えや排泄を放置する、安全配慮をしないなど
    心理的虐待 怒鳴る、無視する、他の子と比較して貶める、失敗を執拗に責める、脅すなど

    参考:「保育所等における虐待等の防止及び発生時の対応等に関するガイドライン」(こども家庭庁)

    他にも、子どもの心身に有害な影響を与える行為を含めて、虐待等と定義しています。ただし、虐待等であるかの最終的な判断は、子どもの状況、保育所等の職員の状況等から総合的に判断されます。

    また虐待対応の強化として、児童福祉法等の一部改正が令和7年10月1日より施行されます。これにより、保育所等の職員が虐待をした場合の通報義務が新たに加わりました。

    明らかな虐待行為があるにもかかわらず、保育所等が話し合いに応じない、適切な措置が取られない場合は、早期に弁護士に相談することをおすすめします。

  3. (3)そもそも適切な保育とは? 厚労省の「保育所保育指針」

    厚生労働省が定めた「保育所保育指針」(平成29年告示 第117号)では、次のような保育の基本原則が示されています。

    ① 保育所の役割
    保育所は、保育を必要とする子どもが健やかに育つための児童福祉施設であり、子どもの最善の利益を守る生活の場です。専門性をもつ保育士が、家庭と連携しながら、養護と教育を一体的に行うことを特徴としています。

    ② 保育の主な目標
    • 情緒の安定と命の保持
    • 健康や生活習慣の基礎づくり
    • 愛情・信頼・協調性・道徳性の育成
    • 自然や社会への関心と考える力の芽生え
    • 言葉への関心と表現力の育成
    • 感性や創造力の芽生え

    ③ 保育の方法
    保育士は、子ども一人一人の個性や発達段階を理解し、安心して過ごせる環境の中で主体的な活動を引き出すことを重視します。また、保護者の思いや状況にも丁寧に向き合い、信頼関係を築きながら支援を行います。

    ④ 保育の環境
    保育環境は「人・物・場」が相互に影響する要素です。保育所は、子どもが自発的に活動し多様な経験ができる環境を整え、安全・快適で温かみのある空間づくりを行います。

    ⑤ 保育所の社会的責任
    保育所は、子どもの人権と人格を尊重しながら、地域と連携し、保育の透明性を保つことが求められます。個人情報保護や苦情対応にも責任を持って取り組みます。

    参考:「保育所保育指針」(厚生労働省)

    保育所では、これらの基本原則に則った育成が求められます。

    保育の内容や職員の対応に疑問や不安を感じたときは、それが「保育所保育指針」に反していないかという視点を持つことが大切です。保護者の気付きや働きかけは、子どもが安心して過ごせる保育所づくりにとって欠かせないものです。不安がある場合は、遠慮せずに相談や確認をするようにしましょう。

2、【4つの事例】不適切保育のケース

不適切保育は、重大な人権侵害や犯罪として問題になるケースがあります。

以下では、子ども家庭庁が「不適切保育(虐待)」の類型として示す4つの類型に沿って、実際の事例をみていきましょう。

  1. (1)園児の宙づり等の身体的虐待で略式起訴となったケース

    某認定こども園において、保育士が棚に入った園児の両足をつかんで宙づりにしたり、給食を食べない園児の頭をたたいたりなどの行為を繰り返していたとして、暴行罪で略式起訴されました。

    この事案は、子どもの身体に直接的な危害を加える「身体的虐待」に該当します。力ずくで言うことをきかせる行為は、子どもに恐怖心やトラウマ(心的外傷)を与えることになり、子どもの成長や発達に深刻な悪影響を及ぼします。

  2. (2)複数の園児に対する性的虐待で実刑判決となったケース

    某保育施設に勤務していた元保育士が、複数の園児に対してわいせつな行為を繰り返していたとして、不同意性交などの罪で実刑判決を受けました。

    性的虐待は極めて重大な人権侵害であり、被害を受けた子どもの心身に深い傷を残すものです。このような行為は厳しく処罰されるべき犯罪であると同時に、保育現場では再発防止のために複数職員による見守り体制や内部通報制度の強化が求められています。

  3. (3)園児を放置(ネグレクト)等して行政指導されたケース

    某認可外保育所で、保育士らが園児を逆さに持ち上げる、柵に押し付ける、下着姿で食事を取らせる、昼寝中の園児に服薬させる、泣いている園児を放置するなどの行為が防犯カメラに記録され、行政指導を受けました。

    このケースは「身体的虐待」「心理的虐待」に加え、必要な世話を怠る「ネグレクト」にも該当します。こうした複合的な不適切保育は、管理体制や職員教育の不備が背景にある可能性もあり、施設全体としての改善が必要です。

  4. (4)給食の過剰指導による心理的虐待で行政指導されたケース

    某認可保育所と小規模保育事業所で、園児に2時間以上給食を食べさせ続けたり、吐くまで食べさせたりする行為が確認され、市は再発防止を求める改善勧告を出しました。

    これらの行為は、子どもの身体的苦痛を引き起こす「身体的虐待」と、人格を否定するような対応による「心理的虐待」に該当します。特に、食事という本来安心・楽しい時間であるべき場面での過剰な強制は、子どもに恐怖や嫌悪を与え、健全な発達に深刻な影響を与えます。

3、なぜ不適切保育は起きるのか?

不適切保育が起きる原因は、単に保育士個人のモラルや資質の問題だけではなく、保育の現場を取り巻くさまざまな問題もその原因のひとつとなります。

以下では、不適切保育が起こる代表的な3つの原因について説明します。

  1. (1)保育士の人手不足と労働環境の悪化

    不適切保育が起きる原因の1つ目は、保育士の人手不足と労働環境の悪化が挙げられます。

    保育士は、慢性的な人手不足に悩まされている業種のひとつです。保育士一人あたりの負担が大きくなり、ストレスを抱える保育士の方も少なくありません。また、十分な人員配置がなされていない保育所では、保育士の目が行き届かず安全な保育の実施が困難になります。

    このような労働環境では、子どもに対する感情的な対応、短絡的な叱責など子どもへの不適切な関わりが発生しやすくなります。

  2. (2)明確な定義や罰則がない

    不適切保育が起きる原因の2つ目は、不適切保育の明確な定義や罰則がないことが挙げられます。

    「不適切保育」には、法律上の明確な定義がないため、保育の現場でもどのような行為が不適切保育にあたるのかについて正しく認識できていないのが実情です。それにより保育士に対する十分な指導や教育が行き届かずに、不適切保育が発生しやすくなります。

    また、「不適切保育」という犯罪はありませんので、当然それに対する罰則もありません。児童虐待防止法で定める「虐待」にあたる行為でも刑法上の暴行や脅迫などの犯罪行為に該当しなければ罰則は適用されません。このように明確な罰則がないことも同様の問題が繰り返される原因として考えられます。

  3. (3)通報や相談がしにくい環境

    不適切保育が起きる原因の3つ目は、通報や相談がしにくい環境であることが挙げられます。

    保育施設では、閉鎖的な人間関係や上下関係の強さが、問題の指摘や通報を妨げる要因となることがあります。若手保育士や職員が先輩職員の不適切な行為を目撃しても、「立場が弱くて言い出せない」「組織内で浮いてしまう」といった不安から黙認されるケースもあります。

    また、保護者にとっても、子どもをあずけている立場から「強く言えない」「保育してもらえなくなると困る」などと躊躇するケースがあります。このような声を上げにくい環境が、不適切保育を表面化させず、結果的に長期化・深刻化させてしまうともいえます。

4、【チェックリスト】不適切保育の兆候を見逃さないために

不適切保育があったとしても、幼い子どもは自分の言葉で説明することが難しいため、保護者が不適切保育の兆候を見逃さないようにしなければなりません。

不適切保育の兆候を見逃さないために保護者ができる対策としては、主に以下の3つが挙げられます。

対策 ポイント
① 子どもの状態を観察・記録 異変を日常的にチェックし、証拠として記録
② 園に相談 感情的にならず冷静に対応し、相談内容の記録を残す
③ 行政・警察・専門機関・弁護士等に相談 状況に応じて適切な機関に相談をする
  1. (1)子どもの状態を観察・記録

    不適切保育を疑う最初のきっかけは、子どもの様子の変化です。

    まずは以下のような症状はないか、チェックしてみましょう。


    チェック項目 チェック欄
    登園を極端に嫌がる(泣き叫ぶ、身体を硬直させる)
    夜泣きやおねしょが増える
    食欲の低下や極端な偏食
    身体にあざ、擦り傷、ひっかき傷がある
    無口になる、怯えが強くなる
    「○○先生がこわい」などの発言を繰り返す
    保育園であったことを話したがらない

    特に身体的な怪我は、写真や動画で傷を記録し、病院を受診して診断書を作成しておくなどの証拠の確保が重要です。

    なおチェック項目は一例ですので、状況に応じて行政(市区町村の保育課や児童相談所)、警察、弁護士等に相談することをおすすめします。

  2. (2)園に相談│クレームにならないための注意点

    子どもの様子の変化から不適切保育の兆候が認められるときは、園に事情の確認をしてみましょう。

    その際は、記録や情報を基に「事実確認」の姿勢で冷静に対話することが大切です。感情的になって園を責めてしまうと、ただのクレームとして受け取られかねません。

    また、園との面談で事実確認をするのであれば、ICレコーダーなどで会話内容を録音し、その内容をしっかりと残しておくことをおすすめします。もし対話が困難な場合は、弁護士の同席なども検討してみましょう。

  3. (3)行政・警察・専門機関・弁護士等へ相談

    園の対応が不十分だと感じた場合や子どもの安全が脅かされているなどの緊急性が高い場合は、外部の相談窓口を利用した方がよいでしょう。

    具体的なケース別の相談窓口は以下の通りです。


    ケース 相談先
    保育の質・園運営の不満 市区町村の保育課・子ども家庭課
    子どもが暴言・暴力を受けた 児童相談所、子ども人権110番、弁護士
    身体的虐待の疑い・園での怪我 警察、弁護士
    事実確認に応じない、園の隠蔽の疑い 弁護士

    特に、虐待や重大な事故が疑われる場合は、早期に弁護士に相談することが重要です。次章では、弁護士に相談すべき具体的なケースについて解説します。

5、弁護士に依頼すべきケースと相談するメリット

不適切保育に気付いても保護者だけでは対応が難しいというケースは、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

以下では、弁護士に依頼すべきケースと相談するメリットについて説明します。

  1. (1)ケース①|園と法的根拠に基づいた交渉をするためのアドバイスが欲しい

    保護者の指摘が「感情的なクレーム」と受け取られ、園側が「法的な問題とはいえない」と一方的に判断したり、「指導の一環だった」などと重要性を認識しなかったりするケースがあります。

    弁護士は、証拠や記録などを基に不適切保育の状況を判断します。また、保護者としてとるべき行動や園の法的責任の有無などのアドバイスも行うため、園側と法的根拠に基づいた冷静な交渉を進めるうえで大きな支えとなるでしょう。

    弁護士が介入することで、感情的な対立を避けつつ、必要に応じて内容証明の送付や損害賠償請求といった法的措置を視野に入れた対応も可能となる点もメリットです。

    もし、弁護士に依頼したことを園に知られたくないという場合には、弁護士が表に立たずに交渉の方法をアドバイスする後方支援でのサポートも可能です。

  2. (2)ケース②|園が事実を隠蔽。話し合いができない

    園が不適切保育を認めず、事実を隠蔽したり、話し合いを拒否したりするようなケースでは、保護者だけで対応を続けるのは困難です。

    弁護士は、不適切保育に関する証拠収集(証拠保全)、園との代理交渉、行政機関への報告や働きかけなど、問題解決に向けてさまざまに働きかけます。特に、園に対する責任追及を考えている場合には証拠が重要となりますので、適切な証拠を確保するには、弁護士のサポートが大切です。

    早めに弁護士に相談をすることで、調停や訴訟などの法的手続きに発展したときもスムーズかつ有利に進められる可能性が高まります。

  3. (3)ケース③|子どもが身体的・精神的被害を受けた

    園による不適切保育により子どもが身体的・精神的被害を受けたというケースでは、園に対して以下のような損害賠償請求をすることができます。

    • 治療費
    • 通院交通費
    • 慰謝料

    園が賠償義務を認めないときは、最終的に民事訴訟により上記損害を請求していくことになりますが、訴訟の際には弁護士のサポートが重要です。園の責任を明確にすることで、同様の被害の再発を防止するという効果も期待できますので、弁護士と共にしっかりと声を上げていきましょう。

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6、まとめ

不適切保育は、子どもの心身に深刻な影響を与える重大な問題です。保護者が「何かおかしい」と感じたとき、それは見過ごしてはいけない「サイン」かもしれません。

ただし、不適切保育とされる行為は幅広いため、兆候に気付いたときは、適切な窓口に相談することが重要です。弁護士は法的知見に基づき、ケースに合わせて柔軟に対応いたします。不適切保育の可能性があるときは、早めにベリーベスト法律事務所までご相談ください。

この記事の監修者
米澤 弘文

ベリーベスト法律事務所
パートナー弁護士  米澤 弘文

所属:東京弁護士会  登録番号:53503

学校問題専門チームのリーダーとして、いじめや退学、事故など、学校・保育園・幼稚園等の管理下で発生する問題に幅広く対応。
東京弁護士会「子どもの人権110番」では長年にわたり相談業務に従事しているほか、ラジオやWEBメディアを通じて学校トラブルに関する情報発信にも力を注ぐ。

  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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