高校や中学校、小学校に通う子どもが妊娠してしまった場合、どのような対応をすべきか、悩まれる保護者の方は多いでしょう。
妊娠による退学は将来にも大きくかかわるため、もし学校から退学をすすめられたとしても、慎重に判断することが重要です。また、妊娠による退学処分に違法性がないかも気になるところです。
本記事では、妊娠による退学が違法となるケースや、学校別の対応の違い、そして退学を回避するための対策をベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
まずは妊娠で退学になることの実情と問題点を解説します。
文部科学省の公表している「妊娠した生徒への対応等について」によると、平成27年4月1日から平成29年3月31日の期間で、学校が妊娠の事実を把握した生徒(2098人)のうち32人が自主退学勧告を受け、自主退学に至っています。
また、退学勧告により退学した生徒のうち18名は「引き続きの通学、休学又は転学を希望していた」ことも明らかになっています。
文部科学省はこれらの実態を受け、妊娠した生徒に学業継続の意思がある場合は安易な退学処分や退学勧告等の対処を行わないように、学校に対して警鐘を鳴らしています。
妊娠を理由に退学した場合のリスクとしては、以下のようなものが挙げられます。
高校を退学すると、最終学歴は「中卒」になります。そのため、以下の高卒や大学卒に比べるとさらに賃金が低くなるおそれがあります。
また、交際相手も若く父親としての自覚を持てず、結果としてひとりで子育てすることになったり、同世代の友達と距離ができてしまったりすることで、社会的に孤立しやすいというリスクもあるのです。
文部科学省では、全国の教育委員会などに向け「妊娠した生徒への対応」について十分な話し合いと教育上必要な配慮を行うよう通知しています。
たとえ学校から退学を告げられたとして安易に承諾せず、違法性はないのか見極めることが大切です。本章では、妊娠による退学処分が違法となるケースについて解説します。
参考:「公立の高等学校における妊娠を理由とした退学等に係る実態把握の結果等を踏まえた妊娠した生徒への対応等について(通知)」(文部科学省)
まずは、それぞれの違いを見ていきましょう。
退学の種類 | 概要 | 学校の強制力 |
---|---|---|
自主退学 | 生徒が自ら退学を申し出て退学する | なし |
退学勧告 | 生徒が自ら退学するよう学校から促される | なし |
退学処分 | 生徒の意思にかかわらず、生徒の在学を一方的に終了させる処分 | あり |
「自主退学」は、生徒(児童・学生)の自主性に基づき、自ら申し出て退学する方法です。
一方、学校が生徒に自主退学するようにすすめるのが、「退学勧告」です(自主退学勧告ともいいます。)。強制力はないため、退学を拒否すれば従来どおりに授業を受けることもできます。
「退学処分」は、生徒の意思にかかわらず、学校が生徒に対して在学関係を一方的に終了させる処分のことです。退学処分は学校長の行う懲戒処分のうち、もっとも重い処分になります。
このように、自主退学、退学勧告、退学処分は、生徒が自主的に退学するか、学校が強制的に生徒を退学させるか、という違いがあります。
退学処分は、校則や学校の内部規定に基づき、学校長の裁量権をもって行われます。もっとも、学校長の下した処分に裁量権の逸脱・濫用があったと認められる場合は、退学処分が違法となる可能性があります。
退学処分が違法となるのは、以下の3つのケースです。
妊娠に対する対応は、学校によって異なる傾向があります。私立高校、公立高校、通信制高校・定時制高校別に「妊娠と退学」の傾向を見ていきましょう。
私立高校は、私立学校法により教育の自由が比較的広く認められおり、校則を独自に定め、運用する権限が法的に保障されています(私立小学校・中学校も同様)。そのため、「不純異性交遊の禁止」や「品行方正の保持」といった校則が定められている学校もあり、妊娠を理由に指導・処分の対象となることがあります。
ただし、処分の妥当性は、校則の内容や学校の対応が生徒の教育を受ける権利(学習権)を不当に制限していないかどうか、また処分の手続きが適正に行われているかなどの観点から判断されます。
妊娠を理由とした退学処分が必ずしも合法と評価されるわけではないため、「保護者・生徒側も意見を述べる」「弁明の機会を求める」ことが重要です。
公立高校は、国や自治体が設置・運営する公的機関であるため、私立高校と比べて憲法上の権利保障や行政手続きの適正性がより厳格に求められます。
そのため、妊娠を理由に一方的に退学処分が下される可能性は極めて低く、実際には休学や支援体制の検討など、在籍を継続できるための配慮が行われるのが一般的です。
なお、公立の小学校・中学校では義務教育のため退学処分を行うことはできません。
私立・公立を問わず、通信制高校や定時制高校にはさまざまな事情を持つ生徒がいて、学ぶ時間帯や学習方法の自由度も高いという特徴から、妊娠をしていても学業の継続がしやすい傾向にあります。
そのため、全日制の私立高校や公立高校の退学を機に、通信制高校や定時制高校に転学するケースも少なくはありません。
妊娠を理由に退学処分を受けないための対策と対応の流れを解説します。
妊娠が判明した段階で、まずは子どもの意思をしっかりと確認しましょう。
たとえば、以下のような選択肢があります。
保護者には、本人の気持ちや不安に寄り添いながら、現実的な選択肢を一緒に選ぶ姿勢が求められます。
また、すでに退学処分をほのめかされていても、すぐに受け入れず、弁護士などの第三者に相談することでより適切な方法が見つかりやすくなるでしょう。
子どもに在学したい意思があるにもかかわらず、学校から退学処分の話が出たら、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
妊娠を理由に退学をさせられてしまうのではないかという不安の中、生徒と保護者だけで学校と交渉しようとすると、それだけ大きな精神的負担がかかってしまうことでしょう。
弁護士に相談することで、子どもの意思に沿った適切なアドバイスを受けることができます。また、学校との交渉を任せることも可能です。
退学処分を通告されても、早急な返答は避け、弁護士に相談することをおすすめします。また、「退学した方が本人のため」「妊娠後も在学し続けた前例がない」などと、退学に仕向けるような退学勧告を受けた場合も同様です。
弁護士は退学処分の妥当性を確認し、必要に応じて学校との交渉に入り、退学処分の回避や手続きの是正を求めることが可能です。
弁護士が早めに関与することで、学校側も一方的な対応をとりにくくなり、話し合いによって在籍継続や休学といった選択肢が確保されやすくなるでしょう。
退学処分を受けた場合でも、その内容や手続きが不当・違法であると考えられるときには、「退学処分の取り消し」を学校に求めることができます。
こうした対応を進める上では、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、以下のような具体的支援を行います。
さらに、学校が話し合いに応じない、不当な処分を撤回しないなどの場合には、退学処分の取り消しを求める退学処分の取消訴訟、学生であることの地位確認訴訟を提起することも検討できます。
参考
学校での問題・トラブルの
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妊娠を理由に退学勧告を受けて自主退学してしまうと、就職や資格取得にも影響が出る上、社会的にも孤立してしまいかねないといったリスクがあります。将来を見据えて慎重に検討し、学業継続を望む場合は学校側に拒否の気持ちを示しましょう。
退学勧告を拒否した後に退学処分になってしまった場合は、訴訟の提起も選択肢のひとつです。
妊娠による退学トラブルを解決するためには、弁護士が有効な相談先です。妊娠による退学トラブルにお困りの方は、ぜひ学校問題専門チームがあるベリーベスト法律事務所へご相談ください。
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設立 | 2010年12月16日 |
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