学校給食では、さまざまなことが原因で食中毒事故が起こることがあります。たとえば、大鍋で大量に調理して作り置きをすることによって菌が繁殖したり、調理従事者の手洗いが不十分で食材にウイルスが付着してしまったりするなどのケースが挙げられます。特に、梅雨の時期や夏の高温多湿な環境などでは、食中毒リスクはさらに高くなるでしょう。
もし、学校給食が原因で食中毒事故が発生した場合、学校側に責任を問うことはできるのでしょうか。また、災害共済給付金は、食中毒においても利用することができるのでしょうか。
今回は、学校給食が原因で食中毒が発生した場合の学校側の責任と過去の事例などについてベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
文部科学省では、学校給食における食中毒防止のために「学校給食衛生管理基準」を定め、平成21年4月1日から施行しています。また、給食の調理従事者に向けては、「学校給食調理従事者研修マニュアル」を用いて食中毒防止に向けた注意喚起をしています。
しかし、このような対策を講じていても、毎年、学校給食で食中毒が発生しているのが実情です。厚生労働省では、過去の食中毒発生状況に関する資料を公表しており、令和5年の食中毒発生状況における施設別発生状況をみると、もっとも多いのが飲食店で489件、次いで家庭が112件、学校は7件となっています。
7件という発生件数からも分かるように、学校での食中毒の発生件数自体は他の施設に比べてかなり少ないといえます。しかし、学校における食中毒は集団発生となることが多いため、食中毒の患者数でみると家庭の173人を上回る190人になっています。
このように、学校での食中毒の発生件数そのものは多くはないものの、一度発生すれば多くの児童・生徒が食中毒にかかってしまうおそれがあるのです。
学校給食で食中毒が発生した場合、学校側の責任を問うことはできるのでしょうか。
学校給食で食中毒が発生し、それにより児童・生徒に被害が生じた場合、学校側に対して損害賠償請求ができる可能性があります。ただし、学校側の法的責任を追及するには、学校側に安全配慮義務違反がある、または不法行為があったことが要件となります。
① 安全配慮義務違反による損害賠償請求
学校は、児童・生徒が安全かつ健康に学校生活を送れるように配慮すべき法律上の義務があります。これを「安全配慮義務」といいます。このような安全配慮義務に違反して、食中毒が発生した場合には、学校側への損害賠償請求が可能です。
具体的には、文部科学省が定めている「学校給食衛生管理基準」や「学校給食調理従事者研修マニュアル」を順守せず、食材や食品の管理が不適切だった結果として食中毒を招いたという場合などは、調理従事者に安全配慮義務違反があるといえます。その場合は学校側の責任を追及できる可能性があります。
② 不法行為による損害賠償請求
不法行為とは、故意または過失により、他人の権利または法律上保護された利益を侵害し、他人に損害を与えた場合に、その損害を賠償しなければならない法的責任です。
安全配慮義務と同様に、調理従事者の落ち度により食中毒が発生した場合には、過失による権利侵害があったといえますので、学校側に対し、不法行為に基づく損害賠償請求が可能です。
災害共済給付金とは、学校の管理下における児童・生徒の負傷、疾病、障害または死亡といった災害に対して補償を行う制度です。補償の対象となるのは、医療費、障害見舞金、死亡見舞金です。災害共済給付金は、学校の責任の有無にかかわらず請求することができ、学校給食による食中毒も給付の対象に含まれています。
学校側への損害賠償請求は、問題の解決まで一定の時間がかかりますので、まずは迅速に補償が受けられる災害共済給付金を利用することを検討しましょう。ただし、災害共済給付金を受給した場合、その金額が損害賠償額から控除されます。
災害共済給付金制度の詳細については、日本スポーツ振興センターのウェブサイトをご参照ください。
参考:「災害共済給付金制度について」(日本スポーツ振興センター)
学校給食による食中毒が問題になった事例を紹介します。
【事案の概要】
平成8年7月に児童が学校給食で提供された冷やしうどんを食べたところ、冷やしうどんに乗せられていた貝割れ大根がO157に汚染されていて、O157感染症による敗血症で児童が死亡した事案です。
死亡した児童の両親は、食中毒で児童が亡くなったのは、学校給食の実施管理に従事する職員が感染症対策を適切に行わなかったことが原因であると訴えました。そのうえで、地方公共団体に過失があるとして、安全配慮義務違反に基づく損害賠償を請求しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、学校給食の提供者である地方公共団体には、以下のような理由から過失が認められるとして損害賠償の支払いを命じました。
令和2年6月26日に埼玉県八潮市の小中学校の給食で提供された海藻サラダから病原大腸菌O7が検出され、これを食べた児童・生徒が下痢や腹痛などの症状を発症した事案です。
埼玉県の食品安全課による調査の結果、委託業者である給食センターが乾燥した海藻サラダを水に戻したまま加熱処理をしていなかったことが判明しました。
調査結果を受け、委託業者が責任を認め、症状のなかった児童・生徒を含めた全員に補償金を支払うことになりました。補償内容は、医療費の実費、慰謝料、仕事を休んだ保護者の休業損害などです。
このように、学校給食を委託業者が提供している場合には、委託業者の責任を問うことになります。
学校給食による食中毒事故が発生し、学校側への責任追及を行う場合は弁護士に相談することをおすすめします。弁護士がサポートできることとしては、主に以下のようなことが挙げられます。
学校給食で食中毒事故が発生し、学校側の法的責任を追及するためには、学校側に安全配慮義務違反や過失があることを証拠により立証していかなければなりません。
食中毒事故においては、調理従事者の衛生管理、調理方法、施設管理などについて、不適切な点があったかどうか、証拠を集めていく必要があります。時間がたてばたつほど証拠収集は困難になりますので、早めに対応することが大切です。
弁護士は、必要となる証拠を検討したうえで適切に収集し、学校側の法的責任の有無を明らかにしていきます。
証拠収集の結果、学校側に食中毒事故の法的責任があると認められる場合には、学校側に対して、食中毒による治療費、入院費、慰謝料などの損害賠償請求をしていくことになります。
その際、まずは交渉(話し合い)によって解決を図ることになりますが、弁護士に依頼すれば学校との交渉を任せることができるため、保護者の方の負担を軽減することにつながります。
交渉で解決ができない場合は、裁判所に訴訟を提起することになりますが、訴訟は非常に専門的な手続きが多くなりますので、法律の知識や経験がなければ対応は困難です。弁護士に依頼すれば、訴訟に発展した場合でも、引き続き対応を任せることができますので、まずはご相談ください。
弁護士は、法的根拠に基づいて、相手方への責任追及をしていきます。相手方の安全配慮義務違反などを立証していくには、法的観点から検討しなければなりません。
弁護士なら個別の状況に応じて必要な証拠を収集し、責任の有無を判断したうえで、相手方への請求を行います。適切に主張していくことで、適正額の損害賠償を獲得できる可能性が高まります。
参考
学校での問題・トラブルの
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学校給食での食中毒事故は、発生件数は少ないものの、毎年発生しています。また、食中毒が原因で重篤な後遺症が生じてしまったり、最悪のケースでは死亡事故に至ってしまったりすることもあります。
学校給食での食中毒事故が発生した場合、学校側に対して法的責任を追及できる可能性があります。学校との交渉や訴訟対応は、弁護士のサポートが不可欠ですので、食中毒事故が発生した場合にはまずはベリーベスト法律事務所までご相談ください。
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