学校で児童生徒が倒れるなどの事故が発生した場合には、状況に応じた適切なAEDの使用が求められています。
万が一適切にAEDが使用されなかった場合には、学校側に損害賠償を請求できる可能性があります。弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償を請求しましょう。
本記事では、学校事故発生時においてAEDが適切に使用されなかった場合の、学校側が負担する法的責任の内容などをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
「公益財団法人日本学校保健会学校における心肺蘇生(AED)支援委員会」が平成29年度に行った調査によると、回答があった2万5260校のうち、AEDが設置されていない学校はわずか25校でした。この調査から、現代ではほとんどの学校にAEDが設置されていることが分かります。
また、平成24年度から平成28年度までの5年間において、実際に学校管理下でAEDのパッドを貼った症例の経験がある学校の数は、下表のとおりです。
小学校 | 232校(1.5%) |
---|---|
中学校 | 206校(2.9%) |
高等学校 | 185校(6.3%) |
中等教育学校 | 2校(8.0%) |
特別支援学校 | 45校(5.2%) |
出典:「学校における心肺蘇生とAEDに関する調査報告書」p3,28(公益財団法人日本学校保健会学校における心肺蘇生(AED)支援委員会)
文部科学省は各学校に対し、学校事故の発生時においてAEDを適切に使用できるように、普段から十分に備えることを求めています。一例として、AED設置場所の確認、AED機器の管理、救命教育講習、救命処置訓練などの備えを十分に行うことが求められます。
参考:「自動体外式除細動器(AED)の適切な管理等について」(文部科学省)
しかし、ほぼすべての学校にAEDが設置されているにもかかわらず、実際には適切に使用されずに深刻な事故へと発展してしまうケースもあります。
学校で児童生徒が倒れた際に、AEDが適切に使用されなかったことについて、損害賠償請求が行われた事例を2つ紹介します。
静岡地方裁判所沼津支部令和3年5月26日判決では、特別支援学校中等部の生徒が歩行訓練中に意識を失って心停止状態となり、低酸素脳症を発症して遷延性意識障害等となった事案が問題となりました。
生徒側は、学校の設置者である地方公共団体に対し、国家賠償責任に基づく損害賠償を請求しました。
静岡地方裁判所沼津支部は、教諭らが生徒の生命・身体に対する損害の発生や拡大を防止する義務を負っていることを前提に、心肺蘇生法の実施とAEDの使用を行った点につき過失を認定しました。そのうえで、教諭らの適切な救命活動を怠った過失と、生徒の遷延性意識障害等の発症の因果関係を肯定し、学校の設置者である地方公共団体に対して総額7906万9542円の損害賠償を命じました。
その後、学校の設置者である地方公共団体は、上記の第一審判決を不服として控訴しましたが、東京高等裁判所はその主張を斥けました。さらに東京高等裁判所は、第一審判決の損害賠償額を変更・増額し、総額8134万9649円の損害賠償を支払うよう、地方公共団体に命じました。
平成25年2月に、部活動中の男子高校生が突然倒れて心肺停止となり、特発性心室細動で死亡しました。養護教諭でもあった顧問が救護に当たりましたが、AEDの使用など心肺蘇生の措置が行われませんでした。
生徒の遺族は、学校の設置者である神奈川県を被告として、横浜地裁に対して約3100万円の損害賠償を請求する訴訟を提起しました。同訴訟は県が解決金1500万円を支払う和解によって終結しましたが、神奈川県は県立学校の全教職員を対象に、年1回の研修を実施することを決定しました。
参考:「追浜高校生徒事故死 神奈川県が両親と和解 全校でAED研修実施へ」(神奈川新聞)
子どもが学校で事故に遭った場合には、学校側に対して損害賠償を請求できることがあります。なお、学校側が負う損害賠償責任の法的根拠は、国公立学校と私立学校で異なります。
学校側に対して請求できる損害賠償の項目は多岐にわたるので、弁護士のサポートを受けながら漏れなく請求を行いましょう。
国公立学校(国立学校、県立学校、市立学校など)において学校事故が発生し、その事故について教職員の過失が認められる場合には、学校の設置者である国・都道府県・市区町村が、被害に遭った児童生徒に対して国家賠償責任を負います(国家賠償法第1条第1項)。
たとえば、学校で倒れた児童生徒に対して、AEDなどによる心肺蘇生措置が適切に行われなかったときは、学校の設置者である国・都道府県・市区町村に対して損害賠償を請求できる可能性が高いです。
また、学校の設備の設置や管理に瑕疵(かし)があったために学校事故が発生した場合にも、学校の設置者である国・都道府県・市区町村が、被害に遭った児童生徒に対して国家賠償責任を負います(同法第2条第1項)。
たとえば、学校に設置されていたAEDが故障していたことが原因で、倒れた児童生徒に対してAEDを使用できなかった場合には、学校の設置者に対して損害賠償を請求できる可能性が高いと考えられます。
なお、国公立学校の教職員個人に対しては、学校事故について損害賠償を請求することはできないと解されています(最高裁判所昭和30年4月19日判決、同法第1条第2項参照)。
私立学校において学校事故が発生し、その事故について教職員の過失が認められる場合には、過失がある者が被害に遭った児童生徒に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負います(民法第709条)。国公立学校とは異なり、私立学校における学校事故については、教職員の個人責任を追及することが可能です。
また、学校事故について教職員に過失が認められる場合は、学校の設置者(学校法人など)も、被害に遭った児童生徒に対して使用者責任に基づく損害賠償責任を負います(民法第715条第1項)。
さらに、土地の工作物である学校の設備につき、その設置・保存に瑕疵(かし)があることによって学校事故が発生するケースもあります。この場合は教職員の過失の有無にかかわらず、当該設備の占有者または所有者が、被害に遭った児童生徒に対して工作物責任に基づく損害賠償責任を負います(民法第717条第1項)。
学校事故によって生じた子どもの傷病・障害・死亡について、被害者側は、学校側に対して以下のような項目の損害賠償を請求できます。
損害の種類 | 概要 | 金額 |
---|---|---|
治療費 | 傷病の治療やリハビリに要した費用 | 実費 |
通院交通費 | 通院に要した交通費 | 原則として実費 ※自家用車の場合は移動距離によって計算 |
入院雑費 | 入院中の日用品等の購入費用 | 1日当たり1500円程度 |
付添費用 | 子どもの入院や通院に家族が付き添った場合に、仕事を休むことによる収入の補塡(ほてん) | 入院付添費:1日当たり6500円程度 通院付添費:1日当たり3300円程度 |
介護費用 | 要介護状態となった子どもの介護費用 | 常時介護:1日当たり8000円程度 随時介護:1日当たり6000円程度 ※ライプニッツ係数による中間利息控除を行う |
入通院慰謝料 | 入院や通院を強いられたことによる肉体的・精神的苦痛に対する賠償金 | 入院期間や通院期間に応じて計算 |
後遺障害慰謝料 | 後遺症が生じたことによる肉体的・精神的苦痛に対する賠償金 | 110万円(14級)~2800万円(1級)程度 ※後遺症の部位や症状などによって異なる |
死亡慰謝料 | 子どもが死亡したことによる、本人の肉体的・精神的苦痛および遺族の精神的苦痛に対する賠償金 | 2000万円~2500万円程度 ※本人と遺族を合わせた金額 |
逸失利益 | 死亡または後遺症に伴う労働能力の喪失により、将来にわたって得られなくなった収入の補塡(ほてん) | 1年当たりの基礎収入、労働能力喪失率、労働能力喪失期間などに応じて計算 ※働いていない子どもの場合、1年当たりの基礎収入は賃金センサスに基づく全年齢平均給与額を用いる |
葬儀費用 | 死亡した子どもの葬儀費用 | 150万円程度 |
子どもが学校事故に巻き込まれたら、弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士は、学校事故に関して以下の対応などを行い、被害者である子どもご本人やご家族をサポートします。
学校側に対して、事故原因の調査を求めていきます。学校側が迅速かつ適切に動いてくれないような場合でも、弁護士から働きかけることで適切な調査がなされる可能性が高まります。事故の原因や問題点などを踏まえ、学校側に再発防止策を求めていきます。
弁護士が依頼人の代理人として学校側との交渉を行います。弁護士に対応を一任できるのでご家族の労力、精神的負担を軽減することができます。
損害賠償請求について法的検討を行い、成否や手続きの見通しを分かりやすくご説明します。また、弁護士が法的根拠に基づいて賠償額を検討し、請求することで適正額の損害賠償を得られる可能性が高くなります。
学校事故によって大変つらい状況にあるときこそ、弁護士のサポートが役立ちますので、お早めに弁護士へご相談ください。
参考
学校での問題・トラブルの
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学校で子どもが倒れた際、適切にAEDが使用されなかった場合には、学校側に損害賠償を請求できる可能性があります。ただし、学校側に対する損害賠償請求を成功させるためには、事故原因に関する調査が欠かせません。学校側が調査を拒んでいるときは、弁護士を通じて徹底的な調査を求めましょう。
また、学校側との示談交渉や訴訟手続きに関する対応の仕方も、損害賠償請求の成否を左右します。経験豊富な弁護士のサポートを受けながら、適正額の損害賠償の獲得を目指しましょう。
ベリーベスト法律事務所は、学校事故に関するご相談を受け付けております。子どもに対する適切な救命活動が行われなかったことなどを理由に、学校側に対して損害賠償を請求したいとお考えの方は、ベリーベスト法律事務所へご相談ください。
所在地 | 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス) |
設立 | 2010年12月16日 |
連絡先 | [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-187-059 ※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 |
URL | https://www.vbest.jp/ |
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