学校で子どもがいじめ被害を受けている場合、学校や教育委員会に要請すれば転校が認められることがあります。
しかしながら、被害者だけが転校を強いられ、加害者は何事もなかったかのように過ごしている状況は、被害者の立場からすると見過ごせないことでしょう。そのような場合には、いじめ被害者は学校・教職員・加害者に対する損害賠償請求などによって責任を追及することができます。
本記事では、いじめを理由に転校することの可否や、いじめに関する損害賠償請求などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
公立の小学校・中学校・義務教育学校に通う場合は、原則として、住民票がある市区町村が指定する学校に通わなければなりません(学校教育法施行令第5条第2項)。
ただし、市区町村の教育委員会が相当と認めるときは、保護者の申し立てにより、その指定した小学校・中学校・義務教育学校を変更することができます(同令第8条)。
各市区町村の教育委員会は、就学校の変更ができる場合の要件や手続きを定め、公表しています(学校教育法施行規則第33条)。市区町村によって変更許可の基準は異なりますが、大半の市区町村では、いじめや不登校などが発生している状況において、指定校以外の学校へ就学することで問題解決が見込まれる場合には、就学校の変更を認めています。
文部科学省のQ&Aにおいても、いじめられた児童・生徒またはその保護者が希望する場合には、時期にかかわらず転校について弾力的な対応を検討することを求めています。
参考:「就学すべき学校の指定の変更や区域外就学について」(文部科学省)
したがって、いじめを受けていることを教育委員会に示すことができれば、転校が認められる可能性は高いといえるでしょう。
いじめを受けた児童・生徒が転校した場合は、いじめ防止対策推進法に定義される「重大事態」に当たるものとして、学校側に対処が義務付けられます。
いじめ防止対策推進法に定義される「重大事態」とは、以下のいずれかに該当する事態をいいます(同法第28条第1項)。
具体的には、いじめによって児童・生徒が自殺を図った場合、心身に重大な被害を負った場合、金品等に重大な被害が生じた場合のほか、転校などを余儀なくされた場合も重大事態に該当します。
いじめに関する重大事態が発生した場合には、学校側は必要な調査を行ったうえで、いじめを受けた児童・生徒および保護者に対する報告や、重大事態への対処および再発防止措置の実施が義務付けられます(いじめ防止対策推進法第28条~第32条)。
さらに、重大事態に関しては文部科学省に対する報告も求められます。
参考:「令和5年3月10日いじめ重大事態に関する国への報告について(依頼)」(文部科学省)
以下の事例では、いずれも学校においていじめに関する重大事態が発生し、大きく報道されました。
いずれの事案においても、学校側の不適切な対応などが原因で、重大事態の認定が遅れた点が強く問題視されています。
現在の法制度の下では、いじめの加害者を強制的に転校させることはできません。
被害者が転校せざるを得ない一方で、加害者がこれまでどおりに学校生活を送ることができる状況は、被害者にとって納得しにくいことでしょう。
学校側に加害者を退学させるよう求めることは考えられますが、公立の小学校・中学校では退学処分を行うこと自体認められていません。また、私立学校や高等学校であれば退学処分が行われることがありますが、退学処分を行うか否かは学校側の判断によります。加害者との間でトラブルになることを危惧して、学校側が退学処分を差し控えるケースも考えられます。
そのため、いじめについて加害者の責任を追及するためには、後述するように、損害賠償請求や刑事告訴による必要があります。弁護士のサポートを受けながら、加害者の責任を追及しましょう。
いじめについては、学校の設置者・教職員・加害者のそれぞれに対して責任を追及できる可能性があります。
国立学校・公立学校で発生したいじめについて、学校としての安全配慮義務違反や教職員の監督義務違反などの過失が認められる場合には、学校の設置者は被害児童・生徒に対して、国家賠償責任に基づく損害賠償義務を負います(国家賠償法第1条第1項)。
私立学校で発生したいじめについて、学校としての安全配慮義務違反や教職員の監督義務違反などの過失が認められる場合には、学校の設置者は被害児童・生徒に対して、使用者責任に基づく損害賠償義務を負います(民法第715条第1項)。
国立学校・公立学校で発生したいじめについて、教職員は原則として個人責任を負いません。ただし、教職員に故意または重大な過失があった場合には、国または地方公共団体が、その教職員に対して求償権を有します(国家賠償法第1条第2項)。
私立学校で発生したいじめについて、教職員の監督義務違反などの過失が認められる場合には、教職員は被害児童・生徒に対して、不法行為に基づく損害賠償義務を負います(民法第709条)。
いじめの加害者は、被害児童・生徒に対して、不法行為に基づく損害賠償義務を負います(民法第709条)。
ただし、いじめの加害者に責任能力がない場合には、被害児童・生徒に対する損害賠償義務を負いません(民法第712条)。この場合、加害者本人に代わって、その父母などの監督義務者が被害児童・生徒に対する損害賠償義務を負うことになります(民法第714条第1項)。
神戸地裁令和4年5月25日判決の事案では、小学校におけるいじめについて、2人の加害児童およびその父母、ならびに学校の設置者・校長・担任教諭の損害賠償責任が争われました。
神戸地裁は、すれ違いざまに肩や背中をたたいたり、身体にぶつかったりする行為や、ドッジボール中に足を踏む、肩でぶつかる、転んだところにボールを当てるなどの行為を、違法ないじめであると認定しました。
なお、加害児童本人は当時9~10歳であったことを踏まえ、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能が備わっていたとは認められないとして責任能力を否定し、代わりに加害児童の父母について監督義務者としての責任を認定しました。
その一方で神戸地裁は、学校側に対する請求に関して、いじめを認識すべき端緒はなかったことや、被害児童が泣いているのを見た教諭が加害児童に対して指導を行い、見守りなどの対策を講じたうえで被害児童の母らに報告をしたことなどを指摘しました。
そのうえで、学校側の組織的対処などに問題はなく、被害児童に対する安全配慮義務違反は認められないと判断しました。
結論として神戸地裁は、加害児童2人の父母に対して、1組には44万円、もう1組には11万円の損害賠償を命じる判決を言い渡しました。
いじめが原因で転校を余儀なくされた場合は、その後の対応について速やかに弁護士へご相談ください。弁護士は、学校に対する適切な調査や報告書作成の働きかけ、学校側や加害者側との示談交渉、損害賠償請求訴訟などの対応を全面的にサポートいたします。
学校側が調査など適切に対応をしてくれないような場合でも、弁護士が被害者の代理人となって交渉することで、学校側が応じてくれる可能性が高まります。学校問題に詳しい弁護士なら、解決に向けて有効な手段を検討したうえで学校や加害者などとの交渉を行うため、ご依頼者さまのご負担は軽減しつつ、迅速かつ適切に対応を進められます。
また法的措置をとる場合には、証拠の収集や手続きなどの準備が必要となりますが、弁護士に依頼すればそのような対応についても一任することができるので安心です。弁護士は適正額の損害賠償を請求できるよう、親身になってサポートいたします。
参考
学校での問題・トラブルの
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いじめが原因で転校を余儀なくされた場合、子どものケアが必要になることに加えて、転校先に関する情報収集や学校側・加害者側の責任追及など、さまざまな対応が必要になります。すべての対応を保護者さまご自身で行うのは非常に大変です。弁護士にご依頼いただければ、ご負担を大幅に軽減しながら対応を進めることができます。
ベリーベスト法律事務所は、学校でのいじめに関するご相談を受け付けております。お子さまがいじめの被害に遭い、転校や損害賠償請求などの対応をご検討中の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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