学校には、教育目的を実現する過程において、児童・生徒・学生が順守すべき学習上および生活上の規律として校則が定められています。基本的には、学校が定める校則に従って学校生活を送っていくことになりますが、校則違反があった場合には、学校から退学処分を受けるケースもあります。
しかし、退学処分は、児童・生徒・学生から教育を受ける権利を奪う重大な処分になりますので、場合によっては、違法・無効となる可能性があります。
今回は、自主退学勧告と退学処分の違いや退学の条件、退学を言い渡されたときの対応方法などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
そもそも退学とはどのような処分なのでしょうか。以下では、退学処分の概要と自主退学との違いについて説明します。
退学処分とは、学校長が児童・生徒・学生に対して、在学関係を一方的に終了させる処分をいいます。学校教育法では、学校長は、教育上必要があると認められる場合は、懲戒を加えることができるとして、以下の懲戒処分を定めています。
退学処分は、学校長による懲戒処分の中でも、もっとも重い処分になります。
なお、公立の小学校および中学校は、義務教育のため退学処分を行うことはできません。そのため、退学処分は、主に公立の高等学校、大学および私立の学校での問題となります。
退学処分と似たものに「自主退学(退学勧告)」というものがあります。
自主退学とは、児童・生徒・学生から自主的に退学を申し出ることで、学校に退学届を提出し、それが受理されると学校との在学関係は終了します。退学処分とは異なり、自主退学は、児童・生徒・学生が自主的に行うという点がポイントになります。
なお、自主退学は、学校からの退学勧告を受けて行われることもありますが、退学勧告に従うかどうかは任意です。退学勧告を受けただけでは教育を受ける権利を奪われることはありません。
校則違反を理由とする退学は認められるのでしょうか。以下では、法律上の退学の条件について説明します。
退学処分は、児童・生徒・学生から教育を受ける権利を奪うものになりますので、学校長が自由に行えるものではありません。学校教育法および同施行規則においては、退学処分を命じることができるのは、以下の4つの条件のうちいずれかを満たした場合に限られます。
① 性行不良で改善の見込みがないと認められる者
性行不良で改善の見込みがないと認められる者とは、以下のような状況かつ教育的視点から児童・生徒・学生の立ち直りを期して指導をしても改善の見込みがないと認められる者をいいます。
校則違反の例としては、免許取得、アルバイト、パーマをかける、化粧をする、染髪をするなどが挙げられます。
② 学力劣等で成業の見込みがないと認められる者
学力劣等で教育的視点から指導をしても成業の見込みがないと認められる場合も退学事由のひとつです。成績が悪いからといって直ちに退学になることはありませんが、必要な指導を行っても改善の見込みがないときは、退学処分となる可能性があります。
③ 正当の理由がなくて出席常でない者
教育的視点から児童・生徒・学生の立ち直りを期して指導をしても、正当の理由がなく出席常でない場合も退学事由のひとつです。学校での人間関係などに特段問題がないにもかかわらず、不登校などが原因で卒業のための出席日数が足りない状態になると、退学処分となる可能性があります。
④ 学校の秩序を乱し、その他学生または生徒としての本分に反した者
上記の①~③に該当する者以外でも、学校の秩序を乱し、その他学生または生徒としての本分に反したと認められる場合も退学事由のひとつになります。
校則違反とまではいえなくても、学校においてふさわしくない行動があったといえる場合には、この事由により退学処分となる可能性があります。
学校長には、幅広い裁量権が認められていますので、懲戒処分も学校長に与えられた裁量権に基づいて行うことができます。しかし、退学処分は、児童・生徒・学生から教育を受ける権利を奪うという重大な処分ですので、学校長の裁量にも一定の限界があり、裁量権の逸脱または濫用があったと認められる場合には、退学処分は違法・無効と判断される可能性があります。
退学処分が違法・無効と判断されるケースとしては、以下の3つが挙げられます。
① 処分が重すぎる場合
校則違反があったとしても、違反の内容や程度はさまざまです。軽微な校則違反であるにもかかわらず、退学処分が命じられた場合には、退学処分が違法・無効になる可能性があります。
② 突然退学させられた場合
校則違反があれば直ちに退学処分ができるわけではありません。教育的視点から児童・生徒・学生の立ち直りを期して指導をしても、改善の見込みがないと認められる場合に退学処分が可能になります。
そのため、段階的な処分を経ることなく、いきなり退学処分が選択された場合には、退学処分が違法・無効になる可能性があります。
③ 学校の調査が十分でない場合
学校が退学処分を行うためには、校則違反の事実をしっかりと調査することが必要です。誤った事実に基づいて退学処分を行った場合には、処分の前提を欠くものとして、退学処分が違法・無効になる可能性があります。
以下では、校則違反による退学が違法・無効と判断された裁判例を紹介します。
【事案の概要】
原告は、被告が設置運営する私立高等学校の3学年に在籍する女子生徒でしたが、同学年の男子生徒との性交渉を伴う交際が発覚したため、学校側から自主退学勧告を受けて、本件高校を退学しました。
原告は、被告による自主退学勧告が裁量の逸脱または濫用があるとして、慰謝料などの支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
裁判所は、男女交際を禁止する校則自体は合理的なものとして有効性を認めたものの、本件自主退学勧告は、事実上退学を強制するものであったといえ、以下のような観点から検討した結果、裁量権の逸脱・濫用があると認定しました。
【事案の概要】
原告は、被告が設置運営する私立高等学校に在籍する男子生徒でしたが、バイクの運転免許取得およびバイク乗車が校則で禁止されているにもかかわらず、バイクの運転免許を取得し、バイクの運転をしていました。
原告は、担任から注意を受けて免許証を提出しましたが、その後無免許でバイクを乗っていたとの通報を受けて、退学処分となりました。原告は、退学処分が裁量の逸脱または濫用があるとして慰謝料などの支払いを求めて訴えを提起しました。
【裁判所の判断】
退学処分は、生徒の身分を剝奪する重大な処分であることから、生徒に改善の見込みがなく、学生の身分を奪うことが教育上やむを得ないものと認められる場合に限って選択でき、退学処分の選択においては、十分な教育的配慮のもとで慎重に行われる必要があるとしました。
そのうえで、本件では、以下のような事情があるため、十分な教育的配慮をしたものとはいえず、退学処分は違法な行為であると認定されました。
校則違反を理由とする退学処分を言い渡された場合には、以下のような対応を検討する必要があります。
学校側から退学処分を受けた場合、まずは学校に詳細な理由の説明を求めます。退学処分というだけではどのような理由や事実に基づいて処分がなされたかわかりませんので、今後退学処分の違法性を争う場合に備えて、詳細な理由の確認が必要になります。
口頭で説明を求めるだけでなく、書面で処分の詳細な理由を明らかにしてもらいましょう。
退学処分の詳細な理由の確認ができたら、次は具体的な処分理由と事実に相違がないかを確認します。処分理由と事実に相違がある場合には、事実誤認により退学処分がなされたことになりますので、処分の撤回を求めて学校側と交渉していくことになります。
仮に、処分理由と事実に相違がないとしても、校則違反に対する処分として退学処分が重すぎるという場合には、裁量権の逸脱または濫用を理由として、処分の違法・無効を主張することができます。
退学処分の違法性を争うための裁判は、結論が出るまで1~2年程度の期間を要するため、その間学校での教育の機会を奪われてしまうのは大きな損害となります。そこで、退学処分の違法性を争う際には、地位保全の仮処分の申し立てを検討しましょう。
公立学校の場合には執行停止の申し立て、私立学校の場合には在学地位確認の仮処分の申し立てという手続きになりますが、このような申し立てが認められれば、退学処分を受けたとしても、引き続き学校に通いながら処分の違法性を争うことができます。
退学処分の違法性を争う場合には、法的知識や経験が不可欠となりますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に相談をすれば、校則違反を理由とする退学処分の違法性を判断することができますので、学校側と争うかどうかの方針を明確にすることができます。仮に違法な退学処分であった場合には、弁護士に依頼することで学校側との交渉をすべて任せることが可能となるため、子どもや保護者の負担は大幅に軽減されます。
また、違法な退学処分を受けた場合は、精神的苦痛などを理由として学校側に損害賠償を請求することができます。損害賠償請求は、子どもが復学を望んでいるかどうか、または復学したか、ということに関係なく請求することが可能です。弁護士は、損害の内容および金額について法的根拠に基づいて主張し、正当な賠償を受けられるようサポートします。
このように、学校側との交渉はもちろん、仮処分の申し立てや裁判での損害賠償請求など法的手続きが必要になった場合でも、引き続き弁護士に対応を任せることができますので安心です。
参考
学校での問題・トラブルの
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学校長は、裁量権に基づいて退学処分を行うことができますが、退学処分は教育を受ける権利を奪うという重大な処分になりますので、裁量権には一定の限界があります。校則違反を理由とする退学処分は、具体的な事情によっては違法・無効になるケースもありますので、処分の違法性を正確に判断するためにも、まずは弁護士に相談することをおすすめします。
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