学校事故の弁護士コラム

学校のプールで発生した事故における責任の所在とは?

  • 学校事故
2024年05月23日
学校のプールで発生した事故における責任の所在とは?

多くの学校では、学校内にプールを設置し、夏場はプールでの水泳指導が行われています。水泳指導は、水泳の技能習得とともに体力の向上にも役立つなどのメリットがありますが、不適切な指導が原因となり死亡や障害を伴うプール事故が発生することもあります。

このような学校でのプール事故が発生した場合、学校側に責任を追及することができるのでしょうか。

今回は、学校のプールで発生した事故における責任の所在と責任追及の方法について、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、学校のプールでの事故状況

学校のプールではどのような事故が起きているのでしょうか。以下では、学校のプールでの事故状況や件数などを紹介します。

  1. (1)学校のプールで起きやすい事故

    学校のプールで起きやすい事故としては、以下のものが挙げられます。

    ① 溺水
    水泳技術が未熟な子どもは、プールの中で溺れてしまうことがあります。
    溺水というと、ある程度深さのあるプールでの事故をイメージするかもしれません。しかし、泳いでいる途中で水を飲みこむなどしてパニックになってしまうと、足が着くような深さのプールであっても溺れる可能性があります。

    ② 飛び込み
    プールサイドやスタート台からの飛び込みは、プールの底に頭部を強打する、プール内にいる人と接触するなどの事故が生じる大変危険な行為です。
    学校のプールでの飛び込みにより、死亡または障害事故が多数起きていることを踏まえて、飛び込みスタートを禁止している学校も多くあります。

    ③ プールサイドでの転倒・接触
    プールサイドは、タイルやコンクリートなどの素材でできていますので、ぬれたままの足だと大変すべりやすくなっています。万が一転倒してしまうと、硬いプールサイドに頭をぶつけるなどして命にかかわるような重大な事故になる可能性もあります。

    ④ 排水溝の吸い込み
    プールの底や側面には、水を循環させるための排水溝が設置されています。プールによっては、排水溝の吸水力が非常に強く、手足などが吸い込まれてしまうといった事故が生じる可能性があります。
    このような事故を防ぐため事故防止用の網などが設置されていますが、経年劣化などによりもろくなっているとそこから吸い込まれてしまうおそれもあるのです。
  2. (2)学校のプールでの事故件数

    ① 水泳中の死亡事故
    平成24年度から平成28年度までの5年間で、学校のプールで起きた死亡事故は、25件あります。
    水泳中の死亡事故の原因は、溺死がもっとも多く21件で、突然死が4件となっています。

    ② 水泳中の障害事故
    平成24年度から平成28年度までの5年間で、学校のプールでのケガなどによって障害が残ってしまった事故は、29件あります。
    水泳中の障害事故の原因としては、飛び込みによるものがもっとも多く13件、泳いでいて生じたものが10件、転倒が2件、衝突が1件となっています。

2、学校のプールでの水泳事故の責任は、学校に追及できる?

学校のプールでの水泳事故が起きた場合、学校に対して責任追及をすることができるのでしょうか。

  1. (1)教師の教育活動に伴って起きたプール事故

    教師の教育活動(水泳の授業、部活動での水泳指導、夏季休業中の水泳指導など)に伴って起きたプール事故については、公立学校であれば国家賠償法1条に基づき、私立学校であれば不法行為(民法709条)、使用者責任(民法715条)、債務不履行責任(民法415条)に基づいて、学校側に対して責任追及を行っていきます。

    そのためには、教師の指導監督において過失または安全配慮義務違反があったといえなければなりません。過失または安全配慮義務には、「結果の発生を予見する義務」と「結果を回避する義務」が含まれますので、いずれかに落ち度があれば過失または安全配慮義務違反が認められます。他方、教師が予見できないようなプール事故や予見できても回避できないようなプール事故に関しては、過失や安全配慮義務違反はなく、賠償責任は認められません。

  2. (2)学校側の施設・設備の使用に伴って起きたプール事故

    学校のプール事故は、教師の落ち度だけではく、プール自体の設置・管理の欠陥(瑕疵(かし))が原因で起きることがあります。

    公立学校であれば、国家賠償法2条1項に基づき、私立学校であれば工作物責任(民法717条1項)に基づいて、学校側に対して責任追及を行っていきます。プールの設置・管理に瑕疵があるとは、その物が通常有すべき安全性を欠いている状態をいいます。たとえば、排水溝の安全設備が経年劣化などにより機能していないような状態、飛び込みをする安全な深度が備わっていない状態などがこれにあたります。

3、学校のプールで発生した水泳事故に関する裁判例

以下では、学校のプールで発生した水泳事故に関する裁判例を紹介します。

  1. (1)大阪地裁平成13年3月26日判決

    この事案は、高等学校の水泳授業中の潜水で、生徒が溺死してしまったというものです。
    裁判では、生徒に潜水という危険度の高い方法をとらせたことについて、学校側に安全配慮義務違反が認められるかが争点となりました。

    裁判所は、潜水の危険性に鑑みると潜水を授業として実施する場合には、潜水の危険性、安全な潜水法を周知させ、異常が生じたときは直ちに救助し得るよう監視すべき安全配慮義務が課されているとしました。そして、本件教師には、安全配慮義務違反が認められるとして、学校側の責任を認めました。

  2. (2)大分地裁平成23年3月30日判決

    この事案は、県立高校の生徒が水泳実習中に、プールに飛び込んだところ、プールの底に頭を打ち付けた結果、後遺障害が生じてしまったというものです。
    裁判では、学校側に安全配慮義務違反が認められるかどうかが争点になりました。

    裁判所は、教師が事前のオリエンテーションにおいて飛び込みの危険性を周知し、飛び込みを原則として禁止していたことから、危険性周知徹底ないし飛び込み禁止指導義務違反は否定しました。しかし、教師の目を盗んで飛び込みをしていた生徒がいることを水泳指導中の教師が目撃していたことから監視ないし危険行為制止義務違反を認めました。
    ただし、生徒側にも重大な過失があったことから、生徒側の過失割合を7割と認定しています。

  3. (3)東京地裁令和3年11月22日判決、東京地裁令和6年3月26日判決

    この事案は、都立高校の生徒が水泳の授業中に教師の指導のもと飛び込みをしたところ、プールの底に頭を打ち付けて、両手足まひなどの障害が残ってしまったというものです。担当教師は、プールのスタート台から前方約1メートル離れた場所にデッキブラシを差し出し、それを飛び越えて入水するよう被害生徒に指示していました。令和3年11月22日に判決が言い渡された裁判は、担当教師の業務上過失傷害の罪に関する刑事裁判になります。

    裁判所は、飛び込みの危険性を十分認識していたにもかかわらず、デッキブラシを差し出すという危険かつ不適切な指導を行い、生徒の安全を守るべき立場である教師としての過失は相当に重く、回復見込みのないケガを負わせた結果は重大だと指摘し、罰金100万円の判決を言い渡しました。

    またその後、元生徒側が東京都に対して約4億2800万円の損害賠償を求めていた訴訟において、令和6年3月26日に東京地裁は、東京都に対して約3億8500万円の支払いを命じる判決を言い渡しました。

4、学校でのプール事故で、学校側に責任を追及する流れ

学校でプール事故が発生した場合には、以下のような流れで学校側の責任を追及していきます。

  1. (1)医師の指示による治療

    プール事故は、死亡または障害が残るような重大な事故につながる可能性がありますので、プール事故が発生した場合には、一刻も早く病院を受診することが大切です。
    また、治療の終了時期については、医師が判断することになりますので、医師が完治または症状固定と判断するまでは、医師の指示に従って治療を継続するようにしましょう。

  2. (2)事実確認・調査

    病院での治療と並行して、学校でのプール事故がなぜ起きたのかという事実確認および調査を行います。
    学校側においてもプール事故の原因究明に向けて動くべきですが、被害者側でも事実確認および調査を進めていく必要があります。教師の過失や、プールの設置・管理に瑕疵があったということは、被害者側で主張立証していかなければなりませんので、事前の証拠収集が非常に重要です。

  3. (3)学校との話し合い

    事実確認および調査の結果、プール事故に関して学校側に落ち度があることが判明したら、学校との話し合いを行い、学校側の責任を追及していきます。

    学校側との話し合いは、被害を受けた子どもに代わって、親が行っていくことになりますが、子どものケアや仕事をしながらでは、学校との話し合いに対応するのが難しいこともあります。そのような場合には、弁護士への依頼がおすすめです。弁護士であれば、依頼者に代わって学校側との話し合いを行いますので、親としてはプール事故に遭った子どものケアに専念するなど、学校との話し合いにおける負担を軽減しながら進めることができます。

  4. (4)訴訟

    学校との話し合いで解決できない場合には、最終的に訴訟を提起する必要があります。
    交渉段階から弁護士に依頼をしていれば、交渉が決裂して裁判になったとしても、引き続き対応を任せることができます。訴訟手続きは、個人で対応するのは非常に難しいものになりますので、早めに弁護士に相談することをおすすめします。

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5、まとめ

学校でのプール事故は、教師の過失やプールの設置・管理の瑕疵によって生じることがあります。しかし、学校側に責任があるかどうかは、法的観点からの検討が必要になりますので、一般の方では、正確に判断することが難しいといえます。

弁護士であれば、学校側の法的責任の有無を判断し、法的責任が認められる場合には、交渉や訴訟などの方法で学校側に責任追及をすることが可能です。学校のプール事故により、死亡または障害が残ってしまったという方は、まずは、ベリーベスト法律事務所までご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
所在地 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス)
設立 2010年12月16日
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  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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