学校事故の弁護士コラム

理科の授業中の実験で事故! 学校の責任は? 損害賠償請求は可能?

  • 学校事故
2024年01月18日
理科の授業中の実験で事故! 学校の責任は? 損害賠償請求は可能?

理科の授業で行う実験では、危険な薬品や器具を使用することがありますので、不注意などにより事故が発生する可能性があります。

万が一、理科の実験中に事故が発生して、子どもが怪我をしてしまった場合には、学校や教員に対して責任を問うことができるのでしょうか。

本コラムでは、理科の実験中の事故が起きた際の学校側の責任や請求できる可能性のある賠償金・補償金などについて、ベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。


1、理科の実験中に事故が起きた場合の責任

理科の実験において事故が発生した場合には、誰がどのような責任を負うのでしょうか。

  1. (1)理科の実験中の事故が起きたら誰が責任を負う?

    理科の実験中に事故が発生した場合の責任は、「国公立学校」か「私立学校」かによって責任の主体が異なってきます

    国公立学校の場合、学校を設置・管理しているのは、国または地方自治体です。そのため、学校の設備や施設などの瑕疵(かし)が原因で、子どもに損害が生じた場合には、国家賠償法により、国または地方公共団体に対して損害賠償請求をしていくことになります。

    私立学校の場合、学校を設置・管理しているのは、学校法人です。そのため私立学校で事故が起きた場合には、不注意で事故を起こした教員だけでなく、教員を使用する学校法人も責任を負うことになります。

  2. (2)安全配慮義務違反があるかどうかで責任の有無が変わる

    安全配慮義務とは、児童や生徒が安全かつ健康に学校生活を送ることができるよう配慮する義務のことをいいます。学校や教員は、児童や生徒に対して、安全配慮義務を負っています。したがって、安全配慮義務に違反して、子どもに怪我をさせてしまった場合には、学校または教員は、損害賠償責任を負う可能性があります。

    理科の実験では、危険な薬品や器具などを使用しますので、子どもに薬品や器具の取り扱いを説明するとともに、十分な安全対策を講じておく必要があります。そのため理科の実験における事故では、安全配慮義務違反があるかどうかが責任追及の可否を決めるうえでの重要なポイントになります。

2、理科の実験中の事故に関する裁判例、事例

以下では、理科の実験中の事故に関する裁判例や事例を紹介します。

  1. (1)福岡地裁久留米支部昭和53年1月27日判決

    ① 事案の概要
    この事案は、町立小学校での理科の授業中の実験で、実験に使用していたフラスコが破裂し、その破片が小学校6年生の児童(原告)の右目にあたり怪我をしたというものです。
    原告は、この事故により以下のような怪我を負い、加療1年4か月を要するけがをしました。

    • 右眼角膜穿孔(せんこう)創
    • 癒着性角膜白斑
    • 外傷性網膜剝離
    • 外傷性白内障
    • 外斜視
    • 左眼屈折異常

    原告は、事故による損害の賠償を求めて、国家賠償法1条に基づいて、学校の設置主体である町に対して、損害賠償請求訴訟を提起しました。

    ② 裁判所の判断
    裁判では、理科の実験を担当した教員に安全配慮義務違反があるかどうかが争点となりました。

    当時行われていた実験は、塩酸にアルミニウムを入れると、水素が発生し、空気よりも軽くよく燃える性質があることを理解させるのが目的でした。教員は、一般的な方法で水素を捕集瓶に集める実験を行っていましたが、二度の実験でもうまく集めることができず、ガラス管の先端にマッチを点火するという一般に実験過程には取り入れられていない方法を実施しました。それにより、ガラス管付近に充満していた水素に引火し、フラスコが爆発するという事故が発生しました。

    裁判所は、ガラス管の先端に火を近づければ爆発するおそれが高いことは予見できたとして、理科の実験を担当する教員の安全配慮義務違反を認定しました。また、公務員である教員の過失により原告に損害を与えたため、町も国家賠償法1条に基づく賠償責任があると認定しました。
    なお、原告と被告との間には、本件訴訟以前に和解が成立していますが、和解時点から原告の視力は著しく悪化したため、和解契約には要素の錯誤があるとして無効とされています。

  2. (2)大阪高裁令和4年4月28日判決

    ① 事案の概要
    この事案は、国公立中学校での理科の授業中の実験で、適正な濃度を超える硫化水素が発生し、それを吸引した中学2年生の生徒(原告)が硫化水素中毒などの症状を発症したという事案です。原告は、硫化水素中毒などの症状により発生した損害の賠償を求めて、裁判所に訴えを提起しました。

    ② 裁判所の判断
    裁判では、理科の実験を担当した教員に安全配慮義務違反があるかどうかが争点となりました。

    事故が発生した際の授業は、鉄と硫黄の化合物に塩酸を入れて硫化水素を発生させるという実験が行われていました。実験で使用する塩酸の濃度については、文献により多少のばらつきはあるものの、当時使用された5~10%の濃度の塩酸は適正濃度順守義務に違反すると原告側は主張し、裁判所はこれを認めました。
    また、実験を担当した教諭は、適正濃度を上回る塩酸を用いただけでなく、必要以上に多量の塩酸と硫化鉄を用いて、多くの硫化水素を発生させ、かつ必要最小限の時間で回収・破棄する手配もとられていなかったことから実験方法順守義務違反も認められるとしました。
    これにより、本件における被告の責任が認められました

  3. (3)理科の実験中の事故により教員が有罪判決を受けた事例

    上記の2つの裁判例は、いずれも民事事件として問題となった事案です。しかし、理科の実験により児童・生徒に怪我をさせた場合には、教員の刑事責任が問題となるケースもあります。

    実際の事例としては、令和5年7月31日に業務上過失傷害の罪で小学校の元教諭が有罪判決を受けた事例があります。この事例は、小学校での理科の実験中に、メタノールに引火して児童3人が負傷したというものです。教諭は、メタノールをビーカーに入れガスコンロで直接加熱し、一斗缶から直接継ぎ足しをして引火させたメタノールを児童3人に浴びせ、けがを負わせました。
    裁判所は、このような危険な行為をした元教諭に対して、禁錮3年、執行猶予5年の有罪判決を言い渡しています。

3、理科の実験中の事故で請求できる損害賠償と受けられる補償

理科の実験中の事故で被害を受けた場合には、どのような賠償や補償を受けることができるのでしょうか。

  1. (1)理科の実験中の事故で請求できる賠償金

    理科の実験中の事故で被害を受けた場合には、以下のような賠償金を請求できる可能性があります。

    ① 慰謝料
    慰謝料とは、肉体的・精神的苦痛に対して支払われる賠償金です。慰謝料には、主に以下の3種類があります。

    • 入通院慰謝料……怪我をした場合に請求できる慰謝料
    • 後遺障害慰謝料……後遺障害が生じた場合に請求できる慰謝料
    • 死亡慰謝料……死亡した場合に請求できる慰謝料

    理科の実験中に怪我をした場合には、怪我の内容や程度に応じて、入通院慰謝料や後遺障害慰謝料を請求できる可能性があります。

    ② 治療費
    理科の実験により怪我をした場合には、病院での治療が必要になります。その際に発生した治療費は、必要かつ相当な範囲で相手に請求することができます。

    ③ 通院交通費
    怪我の治療のために病院に通院することになった場合には、その際の交通費も請求することができます。
    公共交通機関を利用した場合には、実費相当額が支払われます。また、自家用車を利用した場合には、1kmあたり15円で計算したガソリン代を請求することができます。

    ④ 入通院付添費用
    学校での事故の場合、被害者は子どもですので、入院や通院には親の付き添いが必要になるケースがあります。そのような場合には、付添を余儀なくされた親などの負担に対して、入通院付添費用として算定し、請求することができます。

    ⑤ 入院雑費
    怪我の治療のために入院することになると、入院生活中に日用品や雑貨、テレビカードなどの購入が必要になります。そのような費用も本来であれば被害者が負担する必要がなかったものですので、入院雑費として請求することができます。

    ⑥ 逸失利益
    理科の実験による怪我の治療をしても完治せず、後遺症が生じてしまった場合には、後遺障害の内容および程度に応じて、逸失利益を請求することができます。
    逸失利益とは、後遺障害により将来にわたって労働能力が制限されることにより、生じる減収分への賠償です。

  2. (2)理科の事件中の事故で受けられる補償

    学校での事故で怪我をしてしまった場合には、上記のような損害賠償のほかにも、「災害共済給付金」を請求することができます。

    災害共済給付金とは、学校の管理下における児童・生徒の災害に対して支払われる補償金のことです。学校の管理下での災害とは、学校での授業、課外指導、通学などで負傷、疾病、障害、死亡した場合をいいます。そのため、理科の実験中に事故が発生した場合には、災害共済給付金の対象となります。

    災害共済給付金の金額は、災害の種類によって、以下のように異なっています。

    • 負傷、疾病……医療保険並みの療養に要する費用の額の10分の4
    • 障害……4000万円~88万円
    • 死亡……死亡見舞金3000万円または1500万円(運動などの行為と関連のない突然死)

4、学校事故が起きた場合には弁護士に相談を

学校事故が起きた場合には、まずは弁護士にご相談ください。

  1. (1)損害賠償請求の可否についてアドバイスできる

    学校事故における損害賠償請求の可否については、学校または教員の安全配慮義務違反の有無が重要なポイントになります。安全配慮義務違反の有無は、実際の事故状況を踏まえた法的判断が必要になりますので、一般の方では正確に判断することができません

    そのため、学校事故についての責任追及をお考えの方は、まずは損害賠償請求が可能であるかを判断するために弁護士に相談しましょう。

  2. (2)代理人として学校側との示談交渉ができる

    学校側に事故の責任がある場合には、学校側と示談に向けた話し合いを進めていかなければなりません。学校事故のケースでは、被害者は、未成年者である児童・生徒ですので、基本的には親権者である親が代わりに交渉を行うことになります。しかし、ほとんどの方が示談交渉を行うのは初めての経験になりますので、どのように進めればよいかなどわからないことも多いでしょう。

    そのような場合には、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士に依頼をすれば、弁護士が代理人として学校側と示談交渉を行うことができますので、本人およびご家族の負担を軽減することができます。

  3. (3)法的根拠に基づいて適正な損害賠償請求ができる

    学校事故が起きた場合には、怪我の内容や程度に応じてさまざまな損害を請求することができます。損害の立証は、被害者側で行わなければなりませんので、適正な損害額を請求するためには、法的知識や経験が不可欠となります。

    弁護士であれば、法的根拠に基づいて適正な損害額を算定し、賠償請求をすることができますので、安心して任せることができます。

  4. (4)訴訟になった場合の対応を任せることができる

    学校側との話し合いでは解決できない場合には、裁判所に訴えを提起する必要があります。訴訟は、専門的な知識がなければ適切に手続きを進めていくのは困難ですので、弁護士のサポートが欠かせません。

    早い段階から弁護士に依頼をしていれば、訴訟に発展した場合も、引き続き手続きを任せることができますので、早めに弁護士に相談・依頼することが大切です。

5、まとめ

学校での理科実験では、さまざまな薬品・実験器具を使用しますので、使用方法の誤りなどが原因で有害な化学物質が発生するなどして重大な事故が発生するリスクがあります。そのような学校事故が発生した場合には、学校側の安全配慮義務違反を立証して、損害賠償請求を行うことになりますが、学校との交渉や訴訟対応には弁護士のサポートが不可欠といえます。

理科の実験における事故をはじめとする学校事故で、学校への責任の追及を検討している場合は、ベリーベスト法律事務所までお気軽にご相談ください。

この記事の監修
ベリーベスト法律事務所 Verybest Law Offices
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設立 2010年12月16日
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  • ※この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています。

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