中学校・高等学校の現場では、部活中の事故が頻発しています。部活の種類によって事故の内容はさまざまですが、思いがけない事故が発生してしまうことがあります。
もし子どもが部活中の事故に遭ったら、学校側に対する損害賠償請求などができる場合があります。損害賠償請求を検討する場合は、弁護士のアドバイスを受けながら、事故によって被った損害の回復を図りましょう。
今回は部活中の事故について、学校側の法的責任や損害賠償の請求先・手続きなどをベリーベスト法律事務所の弁護士が解説します。
主に中学校・高等学校で多発している部活中の事故について、被害生徒は学校側の法的責任を追及できる場合があります。
日本スポーツ振興センターが公表している「学校の管理下の災害[令和4年度版]」によれば、中学校・高等学校等において発生した、学校の管理下の災害件数(合計)と、そのうち課外指導(部活動など)の際に発生した災害件数は、以下のとおりです。
合計 | 課外指導 | |
---|---|---|
中学校 | 25万1865件 | 11万5267件(45.8%) |
高等学校等 | 21万547件 | 12万2359件(58.1%) |
出典:「学校の管理下の災害[令和4年度版] 帳票1-2 学校種別、場合別件数表」(日本スポーツ振興センター)
学校の管理下における災害の合計件数のうち、中学校では45.8%、高等学校等では58.1%が課外指導中に発生しています。課外指導に占める部活動の割合は非常に大きいと考えられるため、中学校・高等学校では部活中の事故が頻発していることがうかがえます。
学校側は、学校現場における事故防止について、生徒に対する安全配慮義務を負います。したがって、生徒の安全を確保するための必要な配慮を怠った結果として部活中の事故が発生した場合、学校側は生徒に対する損害賠償責任を負う可能性が高いといえます。
部活中の事故に関する学校側の安全配慮義務違反の有無は、以下の2つに基準によって判断されます。
予見可能性と結果回避可能性の有無を判断する際には、部活動の性質や危険性、生徒の技能や体力、事故発生当時の設備状況や天候など、さまざまな事情が総合的に考慮されます。
部活中の事故において、学校側が負う法的責任の根拠は、国公立学校と私立学校で異なります。損害賠償請求の相手方も、事故が国公立学校と私立学校のどちらで起こったかによって変わるので注意が必要です。
また、部活中の事故の原因によっては、学校以外の者に対しても損害賠償請求ができる可能性があります。
国公立学校で部活中の事故が発生した場合、学校の設置者である国または公共団体が、生徒に対して国家賠償責任を負う可能性があります(国家賠償法第1条第1項、第2項)。
一方、監督上の注意義務を怠った教諭などに対して、被害生徒が直接損害賠償を請求することはできません(最高裁昭和30年4月19日判決)。教諭などは、事故について故意または重大な過失がある場合に、国または公共団体から求償を受けるにとどまります(同法第1条第2項)。
私立学校で部活中の事故が発生した場合、監督上の注意義務を怠った教諭などが、生徒に対して不法行為に基づく損害賠償責任を負う可能性があります(民法第709条)。
この場合、学校の設置者(学校法人など)も使用者責任を負い(民法第715条第1項)、教諭などと連帯して被害生徒の損害を賠償しなければなりません(民法第719条第1項)。
また、学校設備の設置または管理に瑕疵(かし)があり、それが原因で部活中の事故が発生した場合は、学校の設置者が被害生徒に対して、工作物責任に基づく損害賠償義務を負います(民法第717条第1項)。
学校側(設置者・教諭など)以外にも、部活中の事故の状況によっては、以下の者に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
参考
部活中の事故について、学校側の責任が認められた裁判例を2つ紹介します。
県立高校の野球部員が、フリーバッティングの練習中に打球を受けて負傷し、県に対して国家賠償請求を行った事案です。
神戸地裁尼崎支部は、指導教諭に事故発生防止の注意義務があることを指摘しました。そのうえで、防球ネットの損傷の有無を確認していなかった点や、耐久年数があるにもかかわらず防球ネットの購入時期等を把握していなかった点などから、指導教諭の過失を認定しました。
野球部員が被った損失として、神戸地裁尼崎支部は、視力低下の後遺障害慰謝料・逸失利益を中心に、計2463万6647円を認定しました。その一方で、野球部員が損傷箇所を認識しながら防球ネットを使用したことなどを考慮して、5割の過失相殺を行いました。
さらに既払いの損害賠償金などを控除し、弁護士費用を加算したうえで、最終的に県に対して840万3759円の国家賠償を命じました。
私立学校のサッカー部員が、大会での試合中に落雷を受け、重篤な後遺症が残った事案です。サッカー部員は、学校の設置者(学校法人)などに対して損害賠償を請求しました。
最高裁は、課外の部活動の担当教諭は、できる限り生徒の安全にかかわる事故の危険性を具体的に予見し、その予見に基づいて事故の発生を未然に防止する措置をとり、生徒を保護すべき注意義務を負うと判示しました。
そのうえで、実際に毎年数件の落雷による死傷事故が発生しており、文献においても落雷事故を予防するための注意に関する記載が多く存在したことを指摘し、学校側の損害賠償責任を否定した原判決を破棄して、審理を原審に差し戻しました。
部活中の事故について補償(賠償)を受けるためには、以下の流れで手続きを進めましょう。
学校の管理下で生じた負傷・疾病・死亡については、日本スポーツ振興センターに対して災害共済給付金の受給を申請できます。障害が残った場合は、認定される障害等級に応じて最大4000万円、死亡した場合は最大3000万円の見舞金を受け取れます。
災害共済給付金の給付要件に該当すれば、争いを経ることなく補償を受けられるのが大きなメリットです。ただし、災害共済給付金を受給した場合、その金額が学校側の損害賠償額から控除されます。
災害共済給付金制度の詳細については、日本スポーツ振興センターのウェブサイトをご参照ください。
参考:「災害共済給付金制度について」(日本スポーツ振興センター)
部活中の事故に関する学校側への損害賠償請求は、いきなり法的手続きに訴えるのではなく、まず示談交渉により解決を図るのが一般的です。示談交渉がまとまれば、早期に損害賠償を受けることができます。
示談交渉を通じて学校側に責任を認めさせるには、それを裏付ける有力な証拠を提示することが求められます。弁護士に調査などを依頼して、周到に準備を整えたうえで示談交渉に臨みましょう。
各地域の弁護士会の中には、学校問題に関する裁判外紛争解決手続(ADR)を取り扱うところがあります。訴訟よりも簡易・迅速でありつつ、客観的な第三者の仲介などを受けられる点が大きな特徴です。
一例として、東京弁護士会が学校問題ADRを取り扱っています。
参考:「学校問題ADRについて」(東京弁護士会)
示談交渉などによる解決が困難な場合は、裁判所に損害賠償請求訴訟を提起します。
訴訟では、損害賠償請求権の基礎となる学校側の注意義務違反などを、被害生徒の側が立証しなければなりません。立証に当たっては専門的な検討を要するため、弁護士を訴訟代理人として対応することをおすすめします。
部活中の事故について、指導者・顧問教諭や学校の責任を追及したい場合には、弁護士への相談をおすすめします。
弁護士は、具体的な事情に照らしてどのような請求ができるのか、どの程度の損害賠償を獲得し得るのかなどの見通しを丁寧に検討し、わかりやすくご説明いたします。
法的根拠に基づいた請求を行うことにより、適正額の損害賠償を獲得できる可能性が高まります。
実際の損害賠償請求の手続きについても、弁護士に全面的にお任せいただければ、ご負担は大幅に軽減されます。
部活中の傷害事故・死亡事故に関する損害賠償請求については、お早めに弁護士までご相談ください。
参考
学校での問題・トラブルの
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部活中の事故を含む学校事故については、学校側に対して損害賠償などを請求できる可能性があります。
その際には、学校側の注意義務違反を証拠に基づき立証することが必要です。立証に当たっては専門的な検討を要しますので、弁護士への相談をおすすめします。
ベリーベスト法律事務所は、学校事故に関するご相談を随時受け付けております。部活中の事故に遭った生徒や保護者の方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
所在地 | 〒106-0032 港区六本木一丁目8番7号 MFPR六本木麻布台ビル11階 (東京オフィス) |
設立 | 2010年12月16日 |
連絡先 | [代表電話]03-6234-1585 [ご相談窓口]0120-187-059 ※代表電話からは法律相談の受付は行っておりません。ご相談窓口よりお問い合わせください。 |
URL | https://www.vbest.jp/ |
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